呪 怨

呪 怨 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

10年程前に経験した事です。

所用ができ、車で隣県へ向かうことになりました。
その日は秋晴れで絶好のドライブ日和。
早めの昼食を家で済ませ身支度をして出かけようとした時、部屋に置いてあった小さな水晶の勾玉が目に入りました。

安価な人口水晶ですが、形が可愛くて購入したもので、いつもなら気にならないのにその日はその水晶がまるで連れて行けと言っているように感じ、胸ポケットに入れて家を出ました。

隣県とは国道で繋がっており私の運転する車はほどなく県境を越えたのですが、その辺りから急に身体の異常を覚えはじめました。
締め付けるような頭痛とむかつき。
始めは昼食のせいかと思いましたが、段々酷くなっていきます。
路肩に停車して休もうか…とも思いながら走らせていました。

やがて片側1車線が2車線になり、見通しの良い直線道路になりました。
私の症状は相変わらずというよりますます酷くなって来ます。
この頃から薄々これは 霊障では?と思い始めていました。
車は所々田んぼを残しながら事業所や倉庫、飲食店が点在する中を直進していきます。
吐き気と闘いながら前方を見ているとはるか前に派手に飾り立てた建造物が見えてきたのです。

?? 一体なんだ?

近づくにつれその建造物が明らかになってきます。

飾りと思ったのは赤い布でした。
赤と言っても綺麗な赤ではなく、まさに血の赤。
誰もが血の色を連想するであろう赤です。
その赤い布が建物をぐるぐる巻きにして、その上にはでかでかと文字が書きなぐってあります。

走行中の車からはその二文字だけがわかりました。

頭痛も吐き気もピークに達した私は何とか通過して目的地に到着し早々に用事を済ませて帰路に就きました。
ただ、またあの赤い布でぐるぐる巻きにされた建物の前を通過しなければなりません。
胸ポケットの水晶を服の上から握り締め丹田に力を入れ歯を食いしばりながら何とか通過し、やり過ごせました。
県境を越えたら身体も楽になり何とか帰宅出来ました。

しかし疲労感が半端なく、何もする気にはなれず座り込んでいました。
どれ程そうしていたでしょう。
不意の足音で我に帰りました。家には私独りです。
鍵もかけました。
その足音は家の中を無遠慮に歩き回り、そのうち階段を上がって2階の床を踏み鳴らし、ドタドタと階段を下りて私の休んでいる隣の和室から仕切りの襖をガタガタ揺すり…
あまりの傍若無人な振る舞いにいい加減私も腹が立って

「うるさい!」

とかなりの大声で一喝。

するとピタッと止みました。

連れて来てしまった…私は正直困ってしまいました。
しかも相手はかなり性悪。
家の外からは学校から帰って来る子どもたちの声。
うちもそろそろ子ども達が帰って来る。
何とかして子ども達に危害が及ばないようにしなければならない…
押し入れの襖に背中をもたれながらそんな事を考えていました。
その時です。

ドンッ!

いきなり襖越しに背中を蹴られたのです。
思わず背中が浮く衝撃と背中に蹴った足の感覚が生々しく残っています。

それは相手の宣戦布告だと思いました。
私は心の中で

「わかった。私が相手になってやる。だから他の者には決して手を出すな」

やがて子ども達が帰宅し、夕飯や入浴と普段の日常が帰って来ました。
幸い、家族はその存在に気づくことなく、その存在も大人しくしていました。
しかし私にだけはねっとりとした執着とあの血の色を連想する憎悪の視線を向け続けていました。

やがて夜になり、いつものように部屋の灯りを消して就寝。

寝入ってどれ程でしょう。
息苦しさに目覚めました。
そう金縛りです。

来たな

想定内なので慌てることはありません。
さて顔を拝むとしようか。
昼間から人の家で暴れたり人の背中を蹴ったりするヤンチャな霊は一体どんな奴なのか…

薄目を開けてみました。

消したはずなのに部屋は明るく、眩しい。
奴は私に覆い被さって何かしようとするものの上手くいかない風で焦っているようでした。
明るく逆光で顔は分かりませんが、スキンヘッドで裸なのはわかりました。
奴の汗ばんだ肌の感触が生々しく気持ち悪い。
どうやら私の中に入りたい(乗っ取り)のだが、入れず汗だくになっているようでした。

無駄だよ。

私は心の中で呟き 次に

お前の好きにはさせない!

と金縛りのまま叫んだのです。

ポンッ!

風船が破裂したような軽い衝撃と共に金縛りが解け、部屋は元の暗さに戻りました。

奴がどうなったのかは分かりませんが、その後同じ道を通っても霊障にはならず、例の建物も禍々しい布は取り除かれしばらくは売物件になり、それも今では倉庫になっています。

後から思い起こすと、その建物は元々は飲食店でした。
当時は国道沿いでもあり、結構流行っていていつも駐車場は車でいっぱいだったのです。
機会があれば一度入ってみたいとも…

何が原因であの店があんなことになり、そしてあれが一体誰だったのかは分かりません。
もし私があのまま奴の侵入を許していたら…

ただひとつだけは言えるのは呪いや怨念が間違いなく人生を大きく変えてしまうということ。
そしてそういった強い負の感情が時として突如降りかかり、侵入を許せば周囲を巻き込み、連鎖していくであろうということ。

気を付けて…
それは意外なほど近くに潜んでいるかも知れません。

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