首の長い女性

首の長い女性 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

私の友達で、東北の某地方都市にて不動産賃貸の営業をしている人が居ます。
「都市」といっても地方ですから、昔の風情が残る街です。
そして、そういう街では大体の場合、昔からの地主さんが大家をしています。
彼が担当している某大家さんもそんな感じでした。
その大家さんは結構な大地主なのですが、田舎に於ける年配の方の中でも特に保守的な方で、一度信用した相手には色々世話をしてくれる一方、新参者にはかなり警戒するような人です。

さて、ある日の事。
その大家さんが持つ物件にお客さんを紹介した彼は、入居する手続きの為、彼の家へ赴きました(賃貸借契約書へは、大家さんの署名・捺印も必要なので)。
田舎の名士の家が多くの場合そうであるように、その大家さんの家も不必要に大きいものでした。
立派な日本家屋で、全てを廻ったわけではないので正確な部屋数は把握できないものの、確実に10部屋以上はありそうな家。

彼が尋ねた時大家さん本人は留守でしたが、お婆さん(奥さん)が愛想良く出迎えてくれました。
「少ししたら主人が帰って来るから」という事で客間に通され、彼は1人で待つことになりました。

『いつ見てもデカイ家だなー』と思いながらボンヤリ待っていた彼。
と、不意に廊下から音がしました。

ペタペタペタ…素足で板の間を歩くような音です。
『もしかして大家さんが帰って来たのかな?』と思ったのですが、どうも様子がおかしい。
足音はするのに、いつまで経っても部屋に入ってきません。
と言うより、足音がずっと止みません。

『これは…おかしいぞ?』と思ったものの、彼が尋ねたのは真昼間です。まさか幽霊が出るとも思えない。
そう考えている間も、足音は続いています。
『家の誰かが、何かの作業をしているに違いない』彼はそう思うことにしました。

やがて大家さんが帰ってきました。
署名捺印も無事に終え、その後は世間話に華が咲き、エライ勢いでお菓子や飲み物が出されます。
「こんなに食べれない」と言っても「これは○○の銘菓で…」とか言って、高級菓子をどんどん出してくる。
普段話す人が居ないので彼を引き止めて置きたい、というのもあるかも知れません。

こうして飲み食いしていた彼は当然、自然の摂理が発動します。
「すいません、ちょっとお手洗いを…」
そう言って席を立ちました。
長くて薄暗い廊下を歩いて行ってトイレで用を足し、再び廊下へ。
…と、突き当たりの暗がりに誰かが立っています。

『家の人かな?でも、この家って大家夫婦以外居なかったような…』と思って軽く会釈をした彼は、相手の姿を見て驚きました。
赤地に白い柄の着物を着た女性…
白い肌と黒い長髪、少しつり上がった目だが端正な顔立ち。典型的な日本美人です。
しかし、彼が驚いたのは全く別のところでした。

『この人、何でこんなに首が長いんだろう?』
常人の2倍…とまではいかないものの、明らかに彼女の首は不自然でした。
しかし、それ以外でおかしい所はありません。
『こういう人も居るかも知れない。あまりジロジロ見たら失礼だ…』

会釈もそこそこに、彼は黙って客間へと戻りました。
そして、大家さんにそれとなく「いやー、綺麗な方ですねー。お孫さんですか?」とか言ったそうです。
大家「孫?」
友人「いえ、さっきトイレ行った時に廊下でお会いしたんですけど…やっぱり日本人は着物ですよねー」
大家「……」

途端に黙り込む大家。
『もしかして、言ってはいけない事を言ったのだろうか…?』
そう思って気まずくなった友人はアレコレと理由を付けて、早々に大家さん宅を辞しました。

やがて会社に戻った彼は契約の話もそこそこに、上司にこの話をしました。
しかし、上司は何も知らない様子で「今時、祭でもないのに着物着てるなんて珍しいよね。
いやー、日本の文化っていいよね。着物最高」程度の反応。
そして、最初こそ気になったものの彼もこの件に関しては徐々に忘れていきました。

それから暫く経った頃。友人はある大家さんに呼ばれました。
その大家さんは先述した大家さんの近所に住む人で、やはり結構な土地持ち(こちらの大家さんはBさんとします)。
貸家を何軒か所有していました。

友人は貸家の管理運営に関する相談をあれこれと受け、やがて世間話に。
その時、何気なく例の女性の話を持ち出しました。

友人「あちらの大家さんのお宅には、綺麗な女性が居ますよねー。Bさんは見かけた事とかあります?」
Bさん「ああ、前に見た事あるよ…俺が見たのは…えーと、戦争終ったすぐ後ぐらいかなぁ。俺のカミさんなんかは、戦前に見たってよ」
友人「あ、いえいえ。自分が見たのはつい最近で」
Bさん「いやさ、だから赤い着物着た人だろ?髪長くてさ」
友人「…ええ、まぁそんな感じでしたけど…」

どうも話が噛みあわない…
そこでよくよく話を聞いてみると、どうもその女性は結構目撃されているらしい。
特に、周辺に住む年配の方々は皆知っているとの事でした。
ただ近所付き合いの関係上、敢えて本人達の前では口に出さないと。

また、戦前辺りまではよく見掛けたらしいのですが、ここ30年あまりはそれ程目撃されてはいないとの事。
何故出てこなくなったのかハッキリした事は分かりませんが、Bさんによれば「(幽霊自身と)同年代の若い人が皆都会に出て行ってしまって、年寄りばかりになったからじゃないか…こんなジジババだけの所へ若いアンタが来たもんだから、嬉しくなって出てきたんじゃないの?」と言われたそうです。

そして、
「首が長い?ああ、あれは首くくったからだよ。首吊ると伸びちゃうんだよなぁ」
Bさんは事も無げにサラリと言ってのけました。
勿論、友人はビビッて言葉も返せずにいました。
自分が真昼間に見たのは幽霊と言われた上、死因まで言われてしまったのですから無理もありません。

ところで、件の彼女が首を吊ったのは明治時代辺りだそうです。
何故そんな事になったのかまでは詳しく語ってくれませんでしたが、どうも男女関係のもつれが原因らしい。

ただ、彼はこうも言いました。
「今度見かけても、変に驚いたりしちゃいけないよ。幽霊と言ったって女なんだから、気味悪がったら傷付いてしまう」

何と言うか、幽霊でも妖怪でも生活の一部として受け入れてしまう。
そんな大らかさが田舎には残ってるんだなぁ、と思った次第です。

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