大学時代の俺の友人についての些細な出来事
俺とその友人Fは、東京の郊外にある冴えない3流大学の学生だった。
俺は実家からその大学へと2時間弱位かけて通っていたのだが、しょちゅう大学の周りにある飲み屋なんかで飲み明かし、終電を逃して家に帰れずなんて事がよくあった。
そんな時に頼りになっていたのが、大学の最寄り駅から、3つとなりの駅にあった友人Fのオンボロアパートだった。
そしてこの日もいつもの様に0時近くまでFと共に飲み明かしてしまった俺は、Fに向かって「スマン・・・今日も泊めてもらっていいかな?」と頭を下げた。
と、いつもならここでFは快くOKの返事をかえしてくれるのだが、今日は何故かFの様子が冴えない。
その上なんとなく俺にあまり泊まりに来て欲しそうにないような感じを受ける。
そんなFの様子を見て俺は慌てて
「あっ、迷惑ならいいよ。今夜は駅前のカプホかカラオケBOXに行くから・・・」
と、さすがにこう毎回毎回じゃFにとっても悪いよな、つい10日前にも泊めてもらったばかりだしと、今夜
はFのアパートに泊まるのは止めにしようとした。
するとFは
「いやちがう、そういう訳じゃないんだ・・・」
と俺を引き止め、
「実は・・・」
と、今F自身の身に起こっているという、不可解な出来事について語りだした。
「実は、俺、最近あのアパートには戻ってないんだ・・・」
Fは真面目な顔でボソリボソリと話しだした。
「え~!? それじゃ、お前今どこで寝てるんよ?」と、俺。
「ああ、A菜のとこに・・・」
「じゃあ、ずっと彼女と同棲生活を送っているってコトか。よかったな」
と、俺は話の展開がまだよく読めず、取り合えずFを茶化してみる。
するとFは
「そんなお気楽なもんじゃねぇよ」
と、マジに返して来た。
そしてよりいっそう深刻そうな表情になってこう打ち明けて来た。
「好きでA菜のところに入り浸っている訳じゃネェよ。・・・俺の部屋、その、なんて言うか・・・変なんだよ」
「変って・・・お化けでもでたのか?」
「・・・よく分からないんだけど、夜中に視線を感じたり、なにかを引っ掻く様な音が俺の部屋中に響き渡ったりで、気味悪くって眠れなくなっちまったんだ」
「ふ~ん・・・よし、じゃあ今夜お前のアパートに行ってその原因を見つけようぜ。
どうせ何時かはアパートに戻らなきゃならないんだからさ」
俺はこの頃は、まだあまりお化け幽霊等の類いはほとんど信じておらず、Fの話もなんか勘違いでもしたんだろうとあまり真面目に受けとっていなかった。
そして酒も多少入っていた事もあって気も大きくなっていた俺は、ためらうFを無理矢理連れて、その怪奇現象の起こった部屋の様子を覗きに行ってみようという事になったのだった。
ギリギリで最終電車に飛び乗った俺たちがFのアパートに辿り着いた頃には時刻はすでに午前1時をまわっていた。
「なあ、おい、本当にヤバいんだぜ・・・」
Fはアパートの前までやって来て、余計にビビってしまってるようだった。
「な~に、2人で行けば怖くはないだろ」
と、俺はFを励ましながらFの部屋のある2階へと駆け上がって行った。
このアパートの2階には全部で3つの部屋が並んでおり、1番手前の部屋は年金生活のお婆さんが暮らしている部屋で、一番奥がFの使用している部屋となっていた。
真ん中の部屋には誰も住んでおらず、大家さんの物置として使われているという事だった。
Fの部屋の前までやって来ると、さすがにFも覚悟を決めたのか率先して部屋の扉を開けようと鍵穴に鍵を差し込もうとしていた。
するとその瞬間、突然部屋の中から
「ギチギチ」
と不快な音が聞こえて来たのだ。
「なぁ、なんだこの音?」
俺はFに尋ねた。
しかしFは俺の質問やこの気味の悪い音などまったく耳に入っていない様子で、さっさと自分の部屋の扉を開け始めた。
Fが部屋の扉を開けたと同時に生肉の腐った様なもの凄い悪臭が部屋の中から流れ出した。
俺はこの凄まじい悪臭や不気味な物音に怯んでしまい、この部屋に入るのに躊躇してしまったのだが、そんな俺とは逆に、Fはさっきまでの態度とは一変して積極的に部屋の中へと入っていこうとしている。
「おい!! F!! どうしちゃったんだ?」
俺はFの態度の豹変ぶりに異様なモノを感じ、Fの肩を掴んで引き止めた。
しかしFは俺の事などもうすでに眼中に入ってはいない様で、俺の手を振り払いどんどんと部屋の中へと突き進んでいってしまった。
俺はこのままFを放っておく事も出来ず、仕方なくFの後を追って部屋の中へと恐る恐る足を踏み入れていった。
部屋の中は電気が灯いていないせいで暗く、相変わらず悪臭が充満しており、窓などもすべて閉め切ってある為かとても蒸し暑かった。
俺はこの暑さと悪臭で気分が悪くなり今にも吐きそうな気分になっていたがそれをどうにか堪えていた。
しかし部屋の隅に存在していたソレを目にした瞬間、俺のガマンも限界を超え堪らずに嘔吐してしまった。
ブクブクと肥大化したまるで臓器のような真っ赤な躯を持つソレは、一見ホヤを思わせるがその大きさは全長2メートル以上はあろうかという程の大きさだった。
そしてその臓器の表面は細かい水泡のようなモノで1面ギッチリ覆われており、このブツブツ臓器が少しでも躯を動かすと「ギチギチ」という不快な音を部屋中に響かせていた。
そんなブツブツ臓器にFは抱きつき、「・・・ごめんね、ごめんね、ごめんね」と何度も何度も呟きつつ、幸せそうな顔でブツブツ臓器の水泡に頬ずりしたり舌を這わせていた。
ブツブツ臓器はFの愛撫に身をよじりながらいつまでも「ギチギチギチギチギチ」と音を立て続けていた。
この一件以来、俺はFの部屋には1度も足を踏み入れてはいない。
F自身は時々、大学に現れては狂った様に体中を掻きむしっている姿を何人かに目撃されていたが、いつしかその姿もまったく見かけなくなってしまった。
なんか書いていて思ったが非常に嘘っぽいな、この話・・・ 完