九段下のホテルに泊まったときの話です。
電気を消してベッドに入りました。
すると、ドアが開く音がしました。
カツン、カツン、と誰かが入ってきます。
ここですでにおかしなことが三つ。
一つ、オートロックのはずなのに、なぜ入れるのか?
一つ、絨毯の上を歩いているのに、なぜカツンカツンと足音がするのか?
一つ、なぜ自分は起き上がれないのか?
ちなみにベッドに入って30秒ほどです。
まどろんですらいませんでした。
瞼だけは開きます。
暗闇にうっすらと姿形が見えてきました。
「!」
その人影は、軍服を着ています。
どうやら旧日本軍の軍人のようです。
将校クラスのように見えました。
私を見おろしながら、何か言っています。
しかし、私には何も聞こえません。
表情から、怒っているようでした。
だんだんと口調は激しくなり、怒鳴っているようでした。
相変わらず私の耳には何も届きませんが、すさまじい怒気だけは伝わってきます。
軍人はやれやれというような表情をすると、おもむろにピストルを取り出しました。
銃口を私の頭に向けて、今度は穏やかな表情で話しています。
私は目で命乞いをするので精一杯です。
彼は、フッ、と笑うと、私に向けて、バン!と発砲しました。
翌朝、いつもどおりに目が覚めました。
けれど、もうそのホテルを利用することは一生ないでしょう。