廃墟の花園

廃墟の花園 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

俺たちがまだ小学校高学年のとき、友達が「秘密基地を作ろう!」なんて言い出した。
そんな言葉を聞けば幼心にとても興奮してしまうわけでさっそく秘密基地が作れそうな土地を友達A、B、C、俺で探した。

土地は結構すぐに見つかった。
Aの家の近くに川が流れていてその堤防の周辺には木が生い茂っている、ちょっとした林があったのだ。
4人で秘密基地をどんな広さ、形にするか相談し、早々に作業に取り掛かった。
しかし小学生で力も無く知恵を回らずに結局自作秘密基地は失敗に終わった。

そこでBが「俺んちの近くに誰も住んでない家あるからそこは?」と言い始めた。
口々に「言ってみよう」という声が上がる。
誰一人として反対しなかったのは幼心ゆえのものだろう。
翌日、透き通るような晴天の日に俺たちはその家を見てみることにした。

Bの家から徒歩で30分くらい。
その家は周りを雑木林、真っ白い背丈の低い花で囲まれていて、どことなく秘密基地には似合わないんじゃないかとさせる雰囲気を漂わせていた。

そんなことを考えながらも学校で「俺たちには秘密基地があるんだ」と自慢したいだけで4人はそこを秘密基地とした。
人が住んでいる気配はまったくしない。
10数年は放置されていたかと思う。
ドアはたてつけが悪く何回もつっかえながら開ける、といった風だ。

また翌日、今度は掃除をすることにした。
地図を簡単に描いて役割を決め、たまった砂埃を払う。
基地は玄関から入ると奥に通じる通路があり玄関の横に階段。
1階は居間、台所、トイレ、と部屋2つ。2階は広いホールをトイレ、部屋1つ。
俺は2階のホールをAと一緒に掃除していた。

15分くらい経ったころ、同じく2階の部屋を掃除していたCが俺らを呼び出した。
「こっち来て見てくれ」「何?」「なんかあった?」
どうもCは何かを覆っている布をとるのが怖かったらしい。
まだ11時くらいで全然明るいので俺もAも怖い、といった感情は沸いてなかった。
Aと俺は「埃が落ちるから」って理由で慎重に布を払った。

箱だ。木箱。
1階のBを呼び4人で囲う。
「なにが入ってるんかな?」
「お金だったらいいな」
皆が自分に都合のいいように箱の中身を言い合う。

開けないことには話しにならないのだが、俺とCは拒絶した。
だって絶対やばいし…。
明らかに日常とは隔した世界にあるように思えるその箱が放つ雰囲気は触るだけで引き込まれてしまいそうな…そんな感じをさせたのだ。

といっても、そこは好奇心の塊小学生。
すぐに開けよう、で満場一致。
Bが開ける。
開けた。
しかし中が見えない。
なぜ?

時間は正午。
窓から注ぐ日の光も十分届いている。
なのに箱の中は暗くて見えない。
みんな見えないはずなのに勘違いからか「何が入ってるん?」と本来ならば見える箱の中身を知りたがっていた。
おもむろに誰かが手を突っ込む。

「わあぁぁぁぁ!!」
「どうした!?」
「大丈夫!?」
「嘘だよ~ww何も入ってないしー」

みんな自分のプライドを捨ててまで心配したのにこの仕返し。
必死に「だと思ったww」言い合って笑い合っていた。
でも俺は一瞬だが見えた。
箱の中の手がCを掴んでいたのを。

それからだ、家を覆う雰囲気が一転した。
人気の無かった家は今ではまるで誰かが住んでいる住居。
今にも住人が起きてきそうで…
それでも俺は「ここやめとかない?」とは言えなかった。
怖がり、と馬鹿にされるのが嫌だったから。

さらに翌日、今度は大量にお菓子とジュースを持ち込み、夕方まで過ごした。
箱は今では玄関に放置されている。

金曜日のこと。
明日が土曜日ということもありかなり遅くまで居ようとみんなで決めた。
親にはそれぞれ今日は誰々の家に遊びに行くから遅れる、なんて言って。

夏なのに6時を回る頃にはすっかり暗くなってしまった。
買ってきたお菓子も半分は食べてしまい、退屈を持て余していた。
Cがトイレに行きたいと言ったがなんせ家のトイレは流れないため、外の雑木林でするしかない。
Cは戸惑いながらもみんなに「怖がりー」などと言われてしまっては行かないわけにいかない。

Cが戻ってくると面白半分に「肝試しをしよう」という話題になった。
条件はこの家を1週。
1人が周り、他の奴は家の外で待機。
俄然盛り上がった。
順番はじゃんけんで、A→俺→C→B。

Aが終わり、俺の番。
まずは1階をぐるって回る。
暗さ以外の恐怖はない。
問題は2階だった。
箱のあった部屋から明らかに気配がする。
そんな気配があれば普通はどんなに暗闇でも見えるはず。
でも見えない。
その部屋を早々に切り上げ外に出る。

次はC。
やたらと早く帰ってきた。
たぶん急いだのだろう。
最後にBの番なのだが、俺ら残り組は今まで何も起こらなかったので3人で遊戯王のことで盛り上がっていた。

突然2階からB(と思われる)叫び声が聞こえた。
全員硬直。
恐怖心でいっぱい。
家から音がする。
そして玄関の扉をたたく音。ドンドンドン!!
「頼む!開けて!!」
3人ですぐさま玄関を開けようとする。しかし開かない。
もともと古びていたドアだがこのときはビクともしなかった。

中からBの声がする。
「頼むから!頼むから!早く」
俺たちも必死だった。
開かないはずがない、なのに開かない。
2階から微かな気配が段々とはっきりして、1階に下りてこようとしているのがわかった。
(今…降りてる)口には言わないがそう思った。

気配がBのすぐ後ろまで来たとき、突然AとCはドアから下がった。
2人も何かしらの異変に気づいたのだろう。
俺は精一杯力を込めてドアを引いた。
すると「カチャ」という小さな音と共にドアは開いた。
飛び出るB。
家の中には…「居る」ことには居るんだが、まったく正体を見せない何かを感じる。

Bはかなり疲れているようで、ぜぇぜぇ言いながら「もう帰ろう」と言う。
もちろん4人はすぐ帰った。
おかしなことがあったのはその翌日の土曜。
4人でいつものように遊ぼうと集まったときだった。

Bが突然「俺、帰らなくちゃ」と言い始め、秘密基地の方向に歩き始めた。
不審に思わなかったのは俺たちがまだ幼かっただからだろうか?
とにかくBの後に続き秘密基地に行った。
おかしなところはすぐわかった。
花が無い。
2階に箱が戻っている。

こうなると流石の俺らも怖くなった。
気丈に振舞いながらも秘密基地を後にした。
それから1週間くらい、Bが事故に遭ったと知らせが入った。
お見舞いには俺とCで行った。
Bはかなり疲労しているらしく、ふくよかな頬からは肉が削げ落ち、右腕にはギブス。

以下、Bが言っていたことを簡単にまとめてみる。

「肝試しのとき、2階の箱のあった部屋に入った途端、急に変だと思ったんだ。
なんせイスの上に布がかぶせてある。
おかしいだろ?布と箱は玄関に持っていったんだから。
俺は布を取った。
箱があったんだ…そこに。
そこで怖くなった俺は急いで外に出ようとした。
すると、ドアが開かないんだ。
何回開けようとしても開かない。
背筋がゾワゾワした。
そのときからだ。急に体が重くなったのは。
一昨日轢かれた場所、わかるか? 秘密基地から帰る途中にいつも通る道だ。
近所の婆ちゃんが言うには俺はどうやらあの雑木林から出てきたらしい。
たぶん、俺は一回基地に行ったんだと思う。」

俺もCも押し黙った。
正体の掴めない何かが怖すぎて…
結局4人でもう秘密基地には行かないことが決められた。
Bの手首は未だに発達が悪いらしく細かった。
俺が見た、何かに掴まれた方が。

追記:前回のO君とはこのときはまだクラスも違うしまったく関わりはなかった。
あの家の周りの花園は復活し、ドアは開かなくなっていた。

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