病棟に勤めていた頃の話です。
ある日、日勤帯でとある癌の患者さんに告知が行われた。
医師やご家族が思っていた以上にご本人は相当なショックを受けられて言動が落ち着きなくなってきたので注意してくださいと夜勤で来た時に申し送られた。
その患者さんは私の受け持ちではなかったのだが不安を訴えられて眠剤を服用されて眠られたようだった。
夜中になりもうひとりの看護師と巡視をしようと廊下に出た時、
ギギギー–
突然大きな音が鳴り廊下の端を見ると非常階段に通じる防火扉が半開きになっていた。
扉の前には誰も立っていない。
バタン、ガチャリ
急に閉まるとカギがかけられたのが見えた。
私ともう一人の看護師は真っ青になった。
何年も前だがそこの非常階段から患者さんが飛び降り自殺を図ったことがあったのだ。
たまたま下に守衛が巡回で回っていて気づいて止めたので大事には至らなかったが、その時のことが真っ先に頭に浮かんだ。
「いっ今!今!誰か出ましたよ!」
「まずい!○○さんかも!!」
癌の告知を受けて精神的に不安定になっているその患者さんの事が真っ先に浮かんだ。
ドアに向かう途中病室を覗いたがやはりいない。
「○○さんいませんよ!!」
「早く早くドアを△×%※◎&×!!!」
互いに焦って、てんやわんやである。
横になっているカギを縦にガチャリと動かして開けようとしたがすごくドアが重い。
やっとの思いでドアを開けたが誰もいなかった。
二人で恐る恐る階段の下を覗き込んだがやはり誰もいなかった。
「誰もいないっすよ・・・・?」
「?確かにドアが閉まってカギがかかったよね、誰かが外からカギをかけたと思ったんだけど・・」
そう言ったままもう一人の看護師はドアを見たまま動かなくなった。?と思い、私もドアを見た。
そのドアには外側からはカギがかけれないようになっていた。
普段、そんなドアのカギの事などマジマジと見ていないからカギが閉まるのを見たとき、外側からかけられたと思い込んでいた。私も、もう一人の看護師も。
しかし、ドアの外側にはカギのついていないノブが付いていた。
確かにカギは私達が見てる前で閉まった。
見えない誰かが閉めたのだろうか・・。
なんとなく今起きた現象について深く突っ込みたくなかった私達は互いに無言になり重たいドアを閉めてカギをかけた。
○○さんはトイレに行ってただけだった。