夏休みに入り、お転婆娘のSちゃんは毎日のように、友達といっしょに山で遊んでいた。
中には知らない子もいた。
夏休み中にこっちの祖父母の家に帰省してきた子だ。
そんな子たちとも、分け隔てなく仲良く遊んだ。
ある日、里山にクワガタ獲りに行ったが、なかなか獲れなかったので、あきらめて、かくれんぼをして遊ぶ事になった。
山の中とは言え、近くには墓場や納屋があり、隠れる場所には困らなかった。
この時は五人ほどで遊んでいたのだが、いつの間にか、青い浴衣姿の男の子が加わっていた。
初めて見る子だったが、特に気にせず仲間に入れてあげた。
「も~ い~ かいっ?」鬼が問う。
「「ま~ だ だよっ!」」一同が答える。
Sちゃんは墓場横の雑木林を隠れ場所に選んだ。
周囲には不法投棄のゴミが散乱している。
空き缶や紙クズだけでなく、古いラジカセ・テレビ・エアコン… そんな物まで捨ててある。
困った人もいるもんだ、と思っていると、そこへ例の浴衣の子が来た。
浴衣の子は、捨ててある冷蔵庫のドアを開き、中へと入った。
そして、こちらを見て「にこっ」と微笑むと、ドアをぱたんと閉めた。
「そこなら見つからんね。」と、Sちゃんは小さな声でささやいた。
しばらく鬼の奮闘が続き、とうとうSちゃんも見つかってしまった。
残りは、あの浴衣の男の子だけだ。
Sちゃんは冷蔵庫の方へ視線を向けないように気をつけながら、焦る鬼役の子を見て、にやにやしていた。
突然、ガゴン! と大きな音がした。
振り返ると冷蔵庫が倒れていた。
ドア側を下にして。
Sちゃんは、かくれんぼどころではないと、中にあの子が入っている事を打ち明け、皆で冷蔵庫をひっくり返そうとした。
が、重い。
子どもの力では無理だった。
その時、運良く、農家のSちゃんの祖父が軽トラックで通りかかった。
Sちゃんはお祖父ちゃんを呼び、冷蔵庫の中の友達の救助を求めた。
農作業で鍛えたお祖父ちゃんの強腕にかかると、冷蔵庫はあっさりと動いた。
お祖父ちゃんは、中の男の子がケガをせぬよう、ゆっくりとひっくり返した。
「だいじょうぶ!?」
と、Sちゃんが冷蔵庫の扉を開く。
しかし、冷蔵庫の中には男の子などいなかった。
中からはボロボロの青い布切れと、大量のワラがぼそっとこぼれ落ちてきた。
「ひゃっ!」と子ども達が小さな悲鳴をあげた。
「こン、イタズラ娘が。」とお祖父ちゃんは、笑いながらSちゃんの頭を軽く小突いた。
友達もSちゃんのドッキリだと思ったようだ。
首を傾げるしかないSちゃんであった。
その日は、皆でお祖父ちゃんのトラックに乗って家に帰った。
トラックの荷台の上で、Sちゃんはワラを一本つかんで、風に任せていた。