昔住んでた家に開かずの間があった。
しかし、小さい頃に一度だけその中を見たことがあるんだが(何故かその時は開いていたのだ)、鎧が椅子の上に鎮座していたのを覚えている。
最近、親と話をしていて何気なくそのことを口に出したのだが、その途端親が血相を変えた。
『お前あれを見たのか?』
『今身体に異常はあるか?』
等いろいろ聞かれた。おれはその様子に不安を感じ、親に問い詰めた。
『あれはなんなんだ?何かマズイものなのか?』
親は口籠もり、
『お前は知らなくていい』
だのと言いだす始末。
ふと、小さい頃親に聞いた話を思い出した。
『早く寝ないとオツキ様がお前を食べにくるよ』
『悪いことするとオツキ様がお前をさらいにくるよ』
オツキ様がなんなのか正直まったく分からなかったし、まわりの子達も知らなかった。
むしろお月様なのだと解釈していた。
しかし親の様子からもしかしたら、ソレは御憑き様なのではないかと脳裏に浮かんだ。
そこに思いたった時、新たな疑念が生まれた。
それは引っ越しした理由だ。
おれが中2の時に祖父が亡くなり、そのしばらく後に逃げるように引っ越しをしたのだ。
親は転勤の時期と不幸が重なったのだと言っていたので、おれは特に疑問にも思っていなかった。
ただ、祖父が召される直前に発した言葉はなんとなく引っ掛かるものを感じていた。
『ツキモリももうだめだ』
というような言葉だ。
これももしかしたら憑き守なのではないか?
おれは最近、昔の家に行ってみた。実に20数年ぶりだ。
その家は朽ちていながら、まだ残っていた。
思い出に残る家と朽ちた家を比べると、やはり哀愁も漂った。
おれは裏から中に入り、開かずの間に行ってみた。
昔は堅固な扉であったが、今はその扉も朽ち果てていた。
扉を蹴破ると、幼い頃にみたあの鎧が同じように鎮座していた。
ただ昔と違うのは仮面の目、鼻、口が欠けており、片腕が異様な裂け方をしていたことだ。
見渡すと、その部屋に一つの浮世絵が飾ってあった。
目鼻が潰され口が裂いてあり、片腕がない男の絵だ。
見た瞬間悟った。
この絵が御憑き様で、おそらくこの鎧が憑き守なのだろうと。
その日から毎晩夢を見る。
あの浮世絵の男になった夢。
両手を後ろ手に縛られ、箸のようなもので目を何度も抉られる。
鼻を石で何度も殴られ鼻骨ごと潰される。
聞こえてくる周囲の嘲笑。
そのうち口をヤスリのようなもので少しづつ削られ、裂かれてゆく。
そして最後に鋸のようなもので片腕を切られる。
ごりごり、ごりごりと声を出そうとするが声が出ない。
いつまでもいつまでもごりごり、ごりごりと切られてゆく。
おれはずっと叫んでる
『やめでくれやめてくれ助けてくれやめでぐれたすげてくれやめてくれ助けてぐれやめてやめでやめでやめでやめでやめでたすげてだれかたすけでだずけたずけで』