うちは田舎の旧家なのだが、庭に先祖代々祀られてきた小堂がある。
小堂の中には蛇神の化身を祀っているらしいが、おれは見たことがない。
蛇神の化身は家の守り神で、大事に崇めていれば家は栄え、有事の際には手を差し伸べてくれるとか。
たとえば、屋敷が火事にみまわれた時、火消の若い衆が駆け付けるより早く、20人ほどの若い男たちが現れ、あっという間に火を消し、立ち去ったという。
さほど大きな村ではなかったのだが、その若者たちは全員見覚えのない顔だった。
戦時中、深刻な食糧難に襲われたとき、どこからともなく20人ほどの若者がたくさんの荷物を抱え、うちに訪ねてきたという。
贈り物です、とだけ告げて、若者たちはすぐに去ったという。
荷物は米、醤油、味噌、塩、砂糖やマッチ等の必需品からたばこの葉まであったという。
これが3日間続いた。
当時の主人は気前よく、村で生活に困っている家にこれを配った。
おかげで村からは餓死者や身売り等の不幸は出なかった。
しかし、蛇神の化身をないがしろにすると恐ろしいことが起きる。
ある時、当時の三男が酔って小堂に小便をかけた。
三男は酒癖が非常に悪く、また、信仰心のかけらもないような人物だった。
翌日より三男の局部はパンパンに腫れ、1週間もたず狂死した。
また、その嫁、3人の子供も次々に不幸な死を遂げたという。
今もこの不思議な小堂はきれいに掃除され、家の庭にたたずんでいる。