先輩に見える人が二人いる。
その人たちと日頃からつるんでいたので、俺自身は見えないけど
「そういう世界ってあるんだなぁ」
という感じだった。
柔道をやっていたS先輩は幽霊を追い払ったという話をよく聞くような豪胆な人。
剣道をやっていたK先輩は見えているにも関わらず、霊がいなくなったり、霊が居る場所から去った後に「実は」と話し始めるタイプの人。
この二人、普段の相性はバッチリなんだけど、こと心霊に関しては相性は最悪だったりする。
S「あそこ、いるよな?」
K「いねぇよ」
S「いるだろうが」
K「どこだよ」
S「ふざけるなよ、いるだろ」
K「だからいねぇって」
と幽霊がいるところで穏やかではない短い会話が頻繁に起こる。
S先輩が、見えているうちは完全無視、という考えを徹底しているが故に起こるいざこざだ。
それを聞いている俺は
「また始まったか」
と幽霊がいるらしいのにも関わらず愉快な気持ちになる。
北海道内でも屈指と言われる心霊スポットに行ったときも同じようにやりとりが始まった。
だけどその時は掴み合いのケンカに発展してしまったのだ。
武道家としてセルフコントロールには定評のある二人が胸倉やら髪の毛をつかみ合っていたのだ。
当然止めに入ろうと思ったのだが、武道は武道だけど弓道の経験しかない俺では二人を引き離す事ができない。
そこで名案が浮かんだ。
S先輩が
「いる」
と言っていた所めがけてダッシュ!
二人とも
「な!」
とすぐに俺を追って屈強な腕四本に体を抑えられた。
S「何考えてんだ馬鹿野郎!」
K「どうなってもいいのか!」
俺「いや、ケンカを止めようと思って」
結果的にケンカを止めたわけだが、探索を続行せずにそこで帰ることになった。
帰りの車の中でつかみ合いにまで発展した理由を聞いた。
まず二人の意見の食い違い。
S先輩→あんだけのヤバい霊だから無事に帰られるとは思えん。Kここは協力して・・・
K先輩→あんだけのヤバい霊だから気付いた事を悟られると無事に帰られるとは思えん。
いつもと同じように「いる」「いない」のやり取りをしている内にその霊が俺達三人を強く意識し始めたのだという。
それに気付いた二人はS先輩の想定していた協力案を決行、つまりケンカし始めたのだ。
方法はどうあれ生きている人間が強いと思わせる、そういう事らしい。
そんな途中に俺がヤバイ霊に走って行ったもんだから二人とも慌てたんだそうな。
俺「でもケンカって何か逆に呼び込みそうなイメージありません?
何事もなかったんですからいいじゃないですか」
S「無事には帰れそうに無いけどな」
K「そうだな」
無事に帰れたんですけどね。