病院で掃除のバイトしてた頃の話。
掃除は深夜誰もいなくなってからやっていた。
その日、俺は全ての作業を終えエレベーターで一階に降りようとした。
この時間は看護婦も診回りに行かないし、医者も当直しかいない。
まして患者さんなどいるはずも無いから病院の中は本当に静かだった。
『下』ボタンをいつものように押すとエレベーターは上に上がってくる、はずだった。
なぜだか、その日は下へ下へと降りていく。
そしてエレベーターは地下二階で止まった…
その階には『霊安室』といくつかの検査室しかなかった。
誰があの階に?
いるわけがない…今日の深夜バイトは俺一人なんだから…
そう考えているうちにエレベーターは上がってきた。
途中で止まってくれたら、誰か忘れ物でもしたのだ、と思えるのに、エレベーターは俺がいる階まで上がってきた。
霊安室のある階からノンストップで最上階まで。
最上階には物置しかなくて俺は掃除用具を片付けに来ただけだった。
誰もここに来るはずが無かった。
そしてエレベーターの扉が開いた…
そこには誰もいなかった。
何だ、勘違いか。
と安心して乗り込もうとした瞬間、何か血なまぐさい臭いがしてきた。
エレベーターの中からだ。
俺はもう気持ち悪くってエレベーターをあきらめ階段を使って一階まで降りた。
えらく時間が長く感じた。
後ろになにかがいるような気がして後ろも見ず一気に駆け下りた。
次の日は昼番で、そこで初めて聞いた。
あの日患者さんが屋上から飛び降り自殺したのを。
そして遺体は霊安室にあったことを。
俺はそれでも霊とかはあまり信じちゃいなかったからこのことは勘違いで済ませそれからもそのバイトは続けていた。
しばらくしてから、ある友達とアパートで酒を飲むことがあった。
そいつは自称霊感ありの奴だったから俺は病院での出来事をそいつに語ってみせた。
俺が話している間、そいつは静かに聴いてたがだんだんそわそわしだした。
トイレかなと思ったけどそうじゃないみたいだ。
そしたらいきなり
『俺もう帰るわ。』
て言い出した。
まだ酒も余ってるのに。
俺は引き止めたけどそいつはさっさと帰ってしまった。
何だあいつ、と少し腹が立ったけど、
一人で飲んでも仕方ないのでその日は寝ることにした。
本当に嫌な夢を見た。
狭いところに無理やり押し込まれるようなそんな夢を。
次の日俺はそいつと学校で会ったから、何で昨日帰っちゃったんだ?と聞いてみた。
そしたらそいつ、こう言った。
「あの話してる時、なんとなくドアの方見たんだよ…
そしたらさあ覗いてんだよ
女がさあ…ポストの受け取りかごの隙間からさぁ…」
ありえなかった。
投函口の内側についてるボックス、あんなところに人の頭が入るはずもないし。
その時外から投函口に頭を突っ込んで、ボックスのスダレみたいになってる隙間からこっちを見てる女の顔を想像して気分が悪くなった。
「言っても信じてもらえないと思って…
それに血まみれでしかも逆さで…
ほんとに置いてってゴメン、ゴメン…」
と最後にはそいつは俺に泣きながら謝ってた。
俺はそれでバイトを辞めた。