人間の鼻は犬ほどじゃないけどよく利く。
そして匂いの持つ記憶力は結構強い。
俺は昔東南アジア一帯を旅して回ったのだが、今でもタイ料理屋とかに行くとあの独特の香辛料の香りが昔旅した地での記憶を甦らせる。
他には白人のねーちゃんとかがいるクラブに行くと、彼達の汗と香水の混ざった香りでこれまた昔行ったヨーロッパの街を突然思い出したり。
あいつら香水じゃ体臭を隠し切れないんだよな。
どーでもいいけど。
まあ、それくらい匂いの持つ記憶は強いって事だ。
で、本題に入る。
ここまで、匂いがどーのって言ってるけど俺の鼻はそれほど利くわけじゃない。
多分人並みだ。
唯一つの匂いを除いては。俺は昔からある意味不幸な人間らしく、よく人の最期に出会う。
大体が最期というか、終わった後だけど。
簡単に言うと事故直後を見る確率が高いわけだ。
グロ耐性マックスの俺にはさして問題もない。
それに1年に何回かは見たくなくても現場を見ちゃうしな。
で、俺の鼻の利きが優れているのはその現場の匂いなんだ。
それに気づいたのは3年ほど前になるか。
俺は大学に行くため歩いてたんだ。
少し先には交差点があった。
交差点といってもあまり広い道ではなく、見通しもそんなに良くない為対面の道路は見えない。
俺はいつもその交差点を真っ直ぐ突っ切るのだが、交差点までもうすぐという所で変な匂いがした。
なんて言うか、暑い所に放置した生ゴミの匂いを薄めたような匂い。
あーくっせーな。
とか俺は思いながら歩いてたわけだが、どこかで嗅いだ事がある匂いだと思ったんだ。
普通は嗅ぐ事のない匂いなのに。
交差点を渡る時に対面の道路を見て俺は全てを理解したよ。
そこには出来立てほやほやの事故現場があった。
結構ひどい事故で運転手はどー見てもご愁傷様でした。
で、その匂いの正体が人が死んじゃうような事故現場からいつも臭ってくるって気づいたわけだが。
さっきも言った通り俺はよく事故現場に出会う体質だ。
匂いに気づいた時から俺は事故現場の近くを通りかかると思い出してしまうんだ。
俺が今まで見てきた凄惨な事故現場を。
まるでフラッシュバックのように、次から次へと昔見た映像が俺の頭の中に浮かんでは消える。
そして目の前には出来立ての悲惨な事故現場。
ホント最悪だよ。