大学三年の夏、飲食店でバイトをしていた。
その日はバイト仲間の家に遊びに寄ったので帰りが深夜になった。
大学の寮までは自転車で十分ほど。
普段のバイト帰りのように角を曲がると車は時々通るけれど、さすがにその時間じゃ人通りはない。
そこへ前から二人乗りの原付が走って来た。
すれ違いざま、後ろに乗ってた女が
「ちょっと☆、すいませぇぇ~ん♪」
呼び止められ振り返ると、
「あのぉ~、すいません~」
って女が俺の方にやってきた。
見るとやはり高純度のDQN。
「あのさ~。お金貸してくんない?」
……タカリかぁ、なんて思ってたら運転していた男がやって来て、
「持ってるだろぉ~?金貸してくれよぉ」
数千円しか持ってなかったが学生の俺には貴重な金だ。
しかも財布には生協カードや免許証やらが入ってるし、こいつらの前でリュックから財布なんか出したくない。
そんな義理もない。
いきなり男が俺のリュックに手をかけて、背中からひったくった。
俺は頭にきて
「返せよっ!」
自転車を降りて男ともみ合いになった。
男からリュックを取り返すと、男は俺にパンチを食らわしてきた。
そこからはスローモーションみたいに憶えているんだけど。
両手で腹の前にリュックを持って取り返した姿勢のままの俺。
そこにヤツのパンチが腹のど真ん中あたりにヒット。
うわぁ……もうダメだ……と思った瞬間、不思議なことに俺はノーダメージ。
痛くも何ともないんだ。
ところがヤツは
「痛えぇぇ~……」
って、まるで鉄板に拳を立てたかのように腕を抱え込んでその場にしゃがみこんだ。
俺は自転車に飛び乗り、マッハの勢いで寮に帰った。
部屋でリュックを確かめてみたんだけど、バイトの着替えのTシャツとタオル、財布、帽子ぐらい。
それほど硬いものなんて入っていない。
不思議に思って何気なく内ポケットのファスナーを開けてみた。
するとそこに「無事カエル」っていう何ともかわいいカエル風味のお守りが入っていた。
そういえば入寮準備の時に母ちゃんが、「通学かばんとリュックにお守り入れたからね」って言ってたんだ。
それから三年経ってたのに、あのカエルのお守りが俺を守ってくれたのか?
きっとそうだ。
その夏休みに帰省して家族に話したら、皆信じてくれた。
家ではお守りの威力すげーな、おい。っていう結論になった。
後日談
あのお守りは俺が地元を離れるってことで入学祝と一緒に、おばあちゃんがくれたものです。
その頃おばあちゃんが行った旅行のお土産だったんだけど、七年前のことだからどこのか憶えてないんだ。
でも天橋立で買ったと聞いたので、今調べたら智恩寺だと思う。
お守りにキャラクターみたいなカエルの絵がついてて、裏に「無事かえる」って、これはひらがなだったかもしれん。
お守りにしては幼稚っぽくて、こんなお守りがあるのかーって思ったよ。
>まるで鉄板に拳を立てたかのように
はちょっと誇張しすぎだったかな。
でもまぁ、そんな感じでうずくまってたんだけど。
もうダメかと思ってビビッたけと、本当に不思議で、こんなことあるのかという感じだったな。
とにかく、それ以降しばらくはバイトの帰り道変えたりして、奴らに会わないようにしてた(笑)