中学の時、いまだに何かの間違いだとは思っているのですが、かなり気味の悪い体験をしたので、書かしてもらおうと思います。
その頃、僕は当時子供達の間で流行っていたバス釣りに熱中していたのですが、釣り場というのはなぜか変な人よく現れる所で、その中に『でていけオジサン』という人がいました。
その人は4,50歳位の小柄な男性で、野池に突然現れては顔をしかめ、「出て行け!!」と怒鳴って、子供達を追い出すという迷惑なオジサンで、釣り仲間の間ではかなりの有名人でした。
その日、僕は友人のI(かなり釣りが上手い)と一緒に、新しい野池を探しに自転車で出かけていました。
道路を走っていると突然Iが「水のにおいがする」と言って、(彼は本当にこうゆうカンが優れている) ヤブの中に入っていったので、僕も竿を担いで、ちょっとした探検気分でヤブのなかをわけいっていきました。
Iのカンは本物で、ヤブが開けた所には、いかにも釣れそうな、前人未踏の秘境といった雰囲気の池がありました。
僕たちは興奮して、さっそく始めようと岸に近づくと、急にIが立ち止まって、 「いた・・・」と言いながら、向こう岸を見ていました。
向こう岸の茂みの中には、二又に枝分かれした大きな木があり、その枝の間からあのオジサンが顔を出していたのです。
木は茂り、ヤブは深かったので、顔以外は見えませんでしたが、気味が悪いことに、オジサンは顔面蒼白で水面をじっと見つめていました。
逃げようと思ってゆっくり後退していると、僕は木の枝を踏んでしまい音を出してしまいました。
口だけをうごかして『バカッ』と言っているIから視線を移し、オジサンを見ると、彼はこちらに気付いて、鬼の様な形相でこちらを睨んできたので、僕とIは一目散に走って逃げて行きました。
不思議なことに、その時後ろからはいつもの『出て行け!』ではなく、何か硬いものを蹴るような、「ドカッドカッ」という音が聞こえていました。
僕とIは当然疲れ果て、その日はそのまま帰ることにしました。
翌日、学校にいくとクラスの釣り仲間が大騒ぎしていたので、僕とIが何があったのか聞くと、Kが「出て行けオジサン自殺したらしいぜ」と言ってきました。
(彼は父親が地元の警官で、小学校の頃からこのテの話でよくクラスを騒がせていました)
Kによると、死因は首吊りによる窒息だそうで、昨夜住民によって発見されたとのこと。
僕とIは、昨日会った人が昨日死んだと知り、少し薄ら寒い様な気がしました。
Kは声のトーンを落とし続けました。
「ここからが怖いんだけど、どうもオジサン、縄が変なとこに食い込んじゃって、かなり長い時間苦しんでから死んだらしくて・・・」
Kはいつも話のヤマ場が近着くと、少し黙って皆の注意を引き付けるのですが、確かこの時も彼はそうしたと思います。
「助かろうとしたのかな、首を吊ってた木の幹に、いくつも蹴った跡があったんだって・・・」
僕はその時、体中の毛が逆立つのを感じました。
ひょっとしたらあの時、オジサンは首を吊っていて、僕達を見て助けを求めいたんじゃ・・・
『叫ばなかった』んじゃなくて、『叫べなかった』んじゃ・・・
Iも同じことを考えていたらしく、目は焦点を失って宙を見つめていました。
僕とIは結局、死にかけた人間があんなに動けるはずはない。
オジサンはちゃんと立っていて、いつもみたいに追い出そうとしてただけだ、自殺とは関係ない!
と結論づけ、それからは一切その話はしていません。
しかし僕の耳には、いまだにあの「ドカッドカッ」という嫌な音がこびりついています。