山登りにハマり始めた10代後半の頃の話。
家の裏山でボッカ訓練をしようと思って、20kgの荷物を背負って、ヒーコラ言いながら歩いてたんだ。
よくその山でトレーニングしてたんだけど、人とすれ違うことって、ほとんどなかった。
でも、その日は、やたら人とすれ違う。
すれ違うたびに、「こんにちは~」って挨拶するんだけど、誰一人として挨拶を返しえてくれない。
俺、コミュニケーション苦手だから、人の顔見て話ができないのね。
でも、あまりに無視され続けるから、ちょっと頭にきて、次すれ違う人には絶対、顔を見て挨拶しようと決意したの。
しばらく歩いていると、おっさんが山頂付近から降りてきて、
俺は意を決して、顔をじっと見て挨拶しようとした。
いや、もう一生忘れられん。
青黒い顔のおっさん、両方の眼球がない。
顔はこっちを向いてるんだけど、顔の真ん中に2つ大きな穴がぽっかり開いてるんだ。
うっすら口も開けてる。
完全にパニックになっちゃって、訳わからん叫び声あげながら荷物を投げ捨てて下山。
必死に家まで逃げ帰ってきたんだ。
ガタガタの体で家まで帰ってきたら、ちょうど庭仕事をしていたうちのじいちゃんに、事の一部始終を話した。
そしたら、いきなりぶん殴られて、
「アホか!今日は12日だが!!」
意味わからないまま近所の寺に連れて行かれて、塩を食わされて、変なお経を唱えさせられて、3日ほど寺の小さなお堂に監禁させられた。
後で親父に聞いたんだけど、12日は神様が木の本数を数える日だから、人間は山に入っちゃいけない日らしい。
人間と木を数え間違えるから、人を見かけると神様がキレルんだって。
山の神様は、人を平気で殺すらしい。
そんな山も、今は造成されて住宅地になってる。
他人事ながら、あんな所に住んでいる人たちが心配で仕方ない。