結婚式の衣装合わせのことで都内の某有名ホテルに行った時、ロビーで中学の同級生に会った。
当時すごく痩せていて病弱で暗かった人だったが、ふっくらと普通の人になっていて、よく笑い、よくしゃべるのでちょっと驚いた。
もっと驚いたのは、ホテルのスイートに泊まっていると聞いたこと。
「上でお茶でもとろう」と言われるままに上階へ。
すごくいい部屋で、宿泊というより暮らしている感じだったが、「どうして?」と聞いても笑って答えない。
こう言っては何だけど、彼女はホテルらしからぬ普段着で、とても浮いた感じがして、とても不思議だった。
ルームサービスでお茶とケーキを頂き(彼女の奢り)、そろそろ帰ろうという時、彼女がふと「いいもの見せてあげる」と言って、奥のベッドルームに連れていかれた。
カーテンが引いてあって薄暗く、医療器具のカートみたいなものが置いてあり、ベッドに裸で髪の長い女の人がむこうを向いて座っていた。
いまだに混乱して記憶が曖昧なのだが、大きなオムツをしていた様な気がする。
汚れた脱脂綿みたいなものが部屋中に散らばっていて、その人は片手が肩の下のところから無かった。
呆然としたまま部屋から押し出されたが、「あの人は誰?」と尋ねても、「知り合いなの」と笑うばかり。
急に自分が彼女の事を全く知らない事に気がついて凄く怖くなり、しどろもどろに別れの挨拶をして逃げ帰った。
彼女はあたふたする私を楽しんでいる様な感じだった。
その後、何度もそのホテルに行かなければならなかったが、もう一度彼女を訪ねる勇気はとてもなかった。
あれからいろいろ考えたが、もし彼女が何かの犯罪に関わっていたなら、わざわざ碌に知らない私に知らせるわけはないし、何かの事情があったんだと思う。
彼女は一人っ子で、以前お母さんと住んでいたアパートはもう取り壊されていてない。
ベッドルームにいた女の人は、どう思い出してもお母さんではなかったように思う。
若い女の人だったとしか思えない。