後続車

山怖にしようか迷いましたが、微妙なので洒落怖へ投下します
連投になるためご支援頂ければ幸いです
尚、地名は特定を避けるため平仮名で記載しております

此は私が夜の山道を車で移動していた時のお話です

其の道は一応国道ではあるものの、所々に集落があるだけで、基本的には両側二車線の細い道路です
幾つか町や村を経由し、傾斜とカーブのキツい山道が延々と続きます
街灯は人が住んでいる近辺にのみ存在し、基本的に車のライトだけが頼りでした

前後に車はなくまた仕事を終えた帰りなので、私は普段よりも気持ちスピードを出していました



ふと気がつくと後ろに自動車の光が見えます。バックミラーを覗くと、思わず私は笑ってしまいました

○   ○
◎●●◎
  ○○

一昔前に流行りだったRV車へ手を加えたものなのでしょうが、
ちょっとゴテゴテしすぎだろう、というかどんだけライト追加してんだよ、と
ちなみに普通のセダンであればこんな感じに映るんですが

◎   ◎

少し後ろの車がどんな姿なのか興味を持ちました
しかし残念な事に街灯は辺りに無く、後ろの車のライトが強烈過ぎて車体も全く見えません
だからといってわざわざ路肩に停め、追い越させてまで確認する気はありませんでした
疲れていたのでさっさと帰って寝たかったのです

暫く走っていると後ろの車がおかしい事に気づきます。どうにもブレが激しいのです
車を運転する際には大体車線の中央をなぞるように走りますよね?
そしてまた道路は曲線状である以上、そうカクカクした動きにはなりません

ですが後ろの車は運転が荒い
片側をジグザグに走っているのではなく、センターラインをぶっちぎりながら走っています
対向車が来たら正面衝突→大破コースです

接近した上でやっているのであれば確実に煽りなんでしょうが、かなりの車間距離が取られています
だからといって通常運転だと判断するには少々行き過ぎています
運転されている方が体調不良でハンドル操作が覚束ないのか
可能性としては低いでしょうけど、車自体にトラブルがあってSOSを発しているのかもしれません

私は車をどこかへ寄せて後続車を先へ行かせる事にしました
用事があれば向こうも止めるでしょうし、煽りであっても通せば其れで終わる話ですから

――が、中々適当な路肩がありません
脇道へ一時寄せるにしても、何故かは分かりませんが、其方へ入るのは危険だと感じていました

其の間にもフラフラと八ツ目のライトは迫ってきます
車間距離が狭まると狭まるだけライトは大きくなります
そんな訳は無いのですけど、光源の大きさは普通の倍以上に見えました

そうこうしているうちに周囲の山の形や、時折ある看板の形が見慣れないものへと変わってしまいました
どうやらどこかで道を間違えてしまったようです



私が其の国道を通ったのは大体数十回ぐらいでしょうか
一度も通らない年もあれば、(仕事の都合で)一月に数回往復する事もありました

やや太い国道に沿って細い県道・市道が派生しており、意図的にハンドルを切らない限りは脇道には入りれません
仕事疲れと背後の車に急かされて判断力が低下していました

しかも国道を逸れたせいで道幅は更に狭く、また初めての場所なのでどこに何があるという見当もなく、
そもそもこの先はどこへ出るんだろうか、と何とも詰んだような状況になってしまいました

まぁでも国道から逸れたんだし、後ろの車もわざわざついてきてはいないよね――との願望は、
バックミラーを見るまでもなく、此方の車内を明るく照らしている事で叶わなくなりました

月の無い夜、慣れない山道、知らない場所、つかず離れず、でも少しずつ近づいて来ている後続車
追いかけられているのかと言えば、クラクションを鳴らすでもなく、むしろ静かに走っています
(相変わらず中央線無視の乱暴な運転ですが)

ガソリンは後100kmは行けるが、夜なのでスタンドはまず開いていません
国道を外れてしまっているので、どこかで一度Uターンする必要があります



暫く、十分ぐらい走った頃、周囲の風景に民家が入り始めました
どこかの村か町へ着いたようです
深夜ではないものの、もうすぐ日付を跨ごうとしてしている時刻です
どの民家にも明かりは灯されていません

廃村か?とややスピードを落して様子を伺っていると、前方に光が見えました
私の車以外に光源はないため、ぼうっと其所だけ闇に浮かんでいます

コンビニ……では無く、自販機のある商店のようです。取り敢えず路肩へ車を停めます
さてさて、では後ろの車は――と、バックミラーを覗くと、其所には何の光も映し出していません
そう言えば先程、自販機の光がはっきり見えた時点で、既に後ろから照らしていたライトは無かったようです

冷静に考えてみると、此の村に住むDQN車が後ろを煽りながらついてきただけ、という結論が出ました
終わってみれば呆気ないというか、自身のチキンっぷりに苦笑しつつ、コーヒーでも買おうと車を降りました

すると今度は”前”に光が見えます

○   ○
◎○○◎
  ○○

対向車線でもなく、此方の車線の進行方向線上に光が見えていました
生憎車がある周囲では他に光はなく、車体の様子は伺えません
私の車は路肩にあるため、ライトの光は届いていませんでした

流石に気持ち悪くなったので、私は煙草へ火を着け、一言注意してやろうと其の車へ近づきました
脅かしているのか煽っているのか、どちらにせよ故意にウロウロしているのは悪質でしょう
最悪でもナンバーを控えて警察へ通報しようと近寄ります

突然、パチッ、と光が切り替わりました

●   ●
○●●○
  ○○

そして私が車体を確認するよりも早く、バックのまま、ライトを一つまた一つ消しながら遠くへ去って行きました
擬音をつけるのであればカサカサカサカサといった音が相応しい程、生理的に気持ち悪い動きでした

……取り残された私は溜め息を吐き、現在地はどこなんだろうかと近くにあった電柱を見上げました
どうしてかは分かりませんが、其所に書かれていた地名を見て、酷く落ち着かない気分になりました

”おどがみ”

……以上、駄文失礼致しました。ご支援下さった方、有難う御座います

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