使われない理由

使われない理由 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

お寺に泊まった時の出来事

ある大きなお寺から、法要と片付けの仕事の依頼を受けた。
法要も無事に終わり、夕方頃には片付けも終わってそろそろ帰ろうかと思った時に、このお寺の副住職から

「少し話をしないか」

と言う事で寺に残る事になった。
本来ならここで怪奇現象についての相談かと思うけれども、実際は自分達の教義について意見を聞きたいという事だった。

実はこのお寺は俺と同じ宗派だけれども少し教義が違う。
元々別宗派だったけれども一緒になったという事もあり、外から見れば教えの内容はほとんど変わらないけれども、厳密に言えば違う所も多かった。
こういう話になるとお互い譲らないので(この辺は色々な事情がある)、時間がたつのも忘れて言い合っている間に深夜なった。
帰りの電車は当然ないし、日帰りの予定だったのでホテルも予約していない。

向こうも

「こんな時間になったのは自分のせいだから」

と言って寺に泊めてもらえる事になった。
問題はこの夜の事。

寺だから空いている部屋はいっぱいある。
その中で八畳ほどの部屋を用意してくれた。
といっても布団と隅にテレビがある位で、ほとんど何もなかった。
元々外部の人が寺に泊まるための部屋との事。
現在は誰も使わないらしい。

風呂に入って部屋に戻り、電気を消して寝たのだが何故か急に眼が覚めた。
目が覚めると自分がうつぶせに寝ていて、しかも部屋の電気がついていた。

「あれ、電気は消したはずなのに…」

と思ってうつ伏せから起き上がろうとした瞬間、体が動かなくなった。

最初は

「金縛りか?」

と思ったけれど、手は動かす事が出来たので金縛りではない事はすぐ分かった。
それに金縛りが来る時は感覚的にわかるので直ぐ外す事もできる。

「あっ、これ違う」

と思った時、耳元でものすごい風の音がした。
それは風と言うよりも暴風といった「ゴー」という音で、金縛りにあったというよりも、暴風に体を抑えられて身動きが取れない状態に近かった。
手で踏ん張って上体を起こそうとしても全く体が上がらない。
耳元で暴風の音がして、体にもかなり強い風を受けているという感覚があった。

結局は

「これは無理だ」

とあきらめてそのまま寝た。
というかいつの間にか寝ていた。

朝、副住職が

「もうすぐ朝のお勤めがあるから」

と起こしに来た。
起こされた俺は部屋を見回すと、電気は消えていて、部屋の隅にテレビがあるという寝る前の光景そのまま。
昨日の事を思い出し、副住職に話をすると、

「俺も前にこの部屋に泊まった事があるけど、そんなことなかったぞ」

と普通に返された。

「あれ、ひょっとして昨日のは夢?でも体に昨日の感覚が残っているし…」

と思っていると、僧侶が

「そういえば、昨日の真夜中何を急いでいたの?」

と聞いてきた。
俺は何のことかわからず、

「昨日は夜中は部屋にいた」

と答えると、

「夜中三時ごろだと思うんだけど…
廊下を走るものすごい足音が聞こえたから、何の音か部屋から出たら、ちょうどお前の部屋に入る姿を見たんだよ」

と言われ、

俺「何言ってんだよ?
そんな夜中に足音立てて走るわけないだろ。
寝ている住職が起きたらどうするんだよ」

副住職「でも、確かに見たんだよ。
お前の寝ている部屋に入口を開けて入る、白い衣(法要で使う衣)に袈裟をつけた着た若い人を…」

俺「お前なぁ…
どの世界に白い衣に袈裟つけて布団で寝る奴がいるんだよ」

副住職「しかし、若い人って今ここにいる二人以外にはいないはずだぞ」

俺はこの部屋が使われない理由がわかった気がした。

★この話の怖さはどうでした?
  • 全然怖くない
  • まぁまぁ怖い
  • 怖い
  • 超絶怖い!
  • 怖くないが面白い