鬼子

鬼子 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

私の地元には昔、M(仮名)という人物がいました。

家の裏のバラックで暮らしていたMは、子供の頃から札付きの悪でした。
しでかす事は子供の悪戯の域を超えています。
大人たちに言われるまでもなく、子供も皆がMを避けていました。
年齢は私より2つ下でした。

Mはバラックで生まれ育ち、一度は家族と引越したのですが、父親が刑務所に入って生活が困窮したそうで、また戻って来たのです。
Mにとって盗みは日常で、ハシゴに登っている大工がいれば即座に取り払い、隠してしまいます。
犬を見れば蹴り飛ばす、なんの慈悲もないのです。
キャンキャンと鳴く犬の痛みなど、Mにとっては無関係なのです。

Mの父親は度々、窃盗などで刑務所に入っては戻るの繰り返し。
姿が見えなくなると
「また別荘に行っているんだろう。」
と噂になります。
しばらく見ないと思ったら、仕舞には行方不明になったそうです。

母親はMを寺へあずけたり、中学生になると警察の道場に通わせ、人並みの子供にしようと手を尽くしていました。
近所の太鼓の同好会に入れたのも、なんとか地域の輪に入れようと努力をしたのだと思います。
Mがはみ出したことをすれば母親がその度に頭を下げてまわり、見るも哀れな様子で、更には生活も困窮しているようでした。

「あの子には反省というものがないんです。
私が死ぬ時には必ずあの子も連れていきますから、どうか多目に見てやって下さい。」
それが母親の決まり文句でした。

中学2年の時、教師を刃物で刺したMは鑑別所に入りました。
周囲の人達は正直ホッとしました。
Mに会わないよう様子を見ながら外に出たり、とにかく出来るだけ関わらないよう、危害を加えられないように気を配っての生活でしたから無理もありません。

次にMを見かけた時には、すでに大人の顔をしていました。
年齢はまだ十代だったはずなのに、口髭のせいか大人にしか見えません。
母親はすっかり痩せ衰えてしまい、程なくして亡くなりました。

その頃のMは新聞や週刊誌にも名が載るほどの無法者で、母親の葬儀には警察と反社会の方が同じくらい集まったそうです。
母親の葬儀は物々しい雰囲気ではありましたが、この辺りでは見ないような立派なものでした。

それから四十九日が経った日、Mは橋から車ごと転落してあっけなく亡くなりました。
母親とは対照的に、Mの葬式は執り行う者も現れず、町内で軽い会葬をして寺へ引き渡す事となりました。
墓は母親と一緒に入れようと町内会長が言いましたが、珍しく寺の住職が反対しました。
結局、隣りに小さな石を置き墓として骨を埋めたそうです。

「もうSさん(Mの母親)を休ませてやらにゃ。あれは間違えてこの世に出てきた、誰にもどうにもならなかった。」
住職はそう語っていました。

住職はMの四十九日が過ぎるまで、毎日墓の前で経を唱えていました。
あまりにも熱心に供養していたため、私は住職にその理由を尋ねてみたのです。
するとこう答えてくれました。

「Mはもう2度と戻って来ないよう、わしがしっかり見送った。
先代の住職はMが鬼子だと、ずっと昔から預かって仏様の道を説いたり、なだめてみたりしていた。
それを後は頼んだと私に託されたんだ。
輪廻って分かるかい?あの男は何度かこの地に生まれては悪行をして、皆が煙たがっていた。
以前には村人がこっそり始末した時期もあったそうだ。
もう知る者もほとんど無いと思うが、寺では記録と口伝で特徴など伝えていたのだよ。
まぁ詳しくは言えんがな。」

住職が言った事の真偽は分かりませんが、今でもニュース等で事件を見ると「鬼子」という言葉が頭を過ります。

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