これは、昔に一度だけ幽霊と思しきものを見たことがある話。
当時は渥美半島に住んでいて、付き合っていた彼女と半島先端の白い灯台まで、バイクの二人乗りで出かけた時だった。
時間は夜の11時過ぎだっただろうか。
堤防沿いを走っていて、もう少しで灯台という時に、テトラポットの合間から『人の顔だけ』が下からライトで照らされたようにボォっと浮き上がっていた。
ソレは、無表情で口を大きく開けていた。
俺には霊感はないが、なぜか直感的に「あっ、これは水死した人だな」と思った。
ただ、それを彼女に言っても怖がらせるだけなので黙っていた。
そんなものを見た後だから、灯台に着いてもすぐ帰りたくなり、急いで立ち去ろうとしたのだが・・・。
すると彼女が、
「来た道を戻るのやめようよ・・・。灯台の手前辺りを通った時に寒気がして、すぐ耳元で『おいでぇ』と声が聞こえてきたの・・・」
と泣きそうな顔で言ってきたのだ。
彼女はフルフェイスのヘルメットを被っていたにもかかわらず。
後日、昼間にその辺りを通ってみたのだが、もし人が居れば絶対に顔以外も見えるロケーションだった。
それに、彼女だけに聞こえた声や、目撃した俺自身も顔しか見えなかったことから、「あれはやっぱり幽霊だったんだな」と思った。