中学2年生の時、私のクラスに転校生がやって来た。
名前は堀之内龍。
とても大人しいヤツで、いつも休み時間には一人で何かノートに書いていた。
そんな彼は、すぐに不良グループに目をつけられてしまった。
いじめられるようになったのである。
「おい、ドラゴン、金よこせや!」
龍だから「ドラゴン」、そんなあだ名をつけられて金をせびられていた。
「お金は持って来てないよ・・・」
そう言って断ると、背中を蹴られていた。
教科書をボロボロにされたり、上履きをカッターで切られたりしたが、堀之内は一切反抗することもないし、先生や親に言いつけたりもしていないようだった。
無抵抗ということで、あだ名は「ガンジー」に変わった。
社会科の世界の歴史の授業で、インドについて習ったばかりだったからだ。
堀之内が黙っているとはいえ、教科書が破かれて使い物にならなくなっているわけだから、担任の教師はいじめの事実に気がついた。
しかし、保護者や校長、さらにその上の教育委員会を恐れ、すぐに新しい教科書を堀之内に与え、何事もなかったかのように取り繕った。
上履きがズタボロの時はスリッパを用意し、次の日には堀之内の足にぴったりと合う新しい上履きを買ってくるという、徹底した隠蔽工作を行った。
そんなある日、不良グループのリーダーで堀之内いびりの首領が、授業中に突然暴れ出した。
リーダーは椅子を持ち上げ、振り回している。
なぜいきなりキレ出したのか、誰にも分からなかった。
ちょうど担任の国語の授業中だった。
女子は悲鳴を上げ、リーダーを取り押さえようとした男子数人は椅子で叩かれそうになり、すごすごと引き下がった。
担任に至っては、教室の隅で震えている。
「憑いてるんだよ」
私の隣に座っていた堀之内がぼそっと呟き、立ち上がった。
「えっ?」
堀之内を見ると、両手でおにぎりを握るような動作をしている。
手の平で何かを丸めるような動きだ。
すると堀之内は、わけの分からないことを喚き散らしているリーダーの背後にゆっくりと近付き、そのまま右手に何か丸いボールみたいなものを持っているような手の形を作って、思いっきりリーダーの背中に投げつけるような動作をした。
『ドンッ!』という音が響き、リーダーは少し吹き飛ぶように教室の床にぶっ倒れた。
普段の堀之内からは考えられないバカ力だった。
「離れたよ」
堀之内は誰にともなく言った。
「すぐに目を覚ますよ」
また堀之内が独り言のように言った。
すぐにリーダーは目を開け、頭を抱えて辺りを見回した。
起き上り、今までに見せたことのない恥ずかしそうな顔をすると、ミノムシみたいに縮こまってしまった。
この一件で、堀之内に『霊能力』というものが備わっているという事がクラス中に明らかになった。
つまり、霊に取り憑かれて頭のおかしくなったリーダーに堀之内が行ったのは、『除霊』だったのである。
これ以降、堀之内がいじめられることは無くなり、不良連中も含めクラス全員が尊敬の念を込めて、堀之内のことを「龍さん」と呼ぶようになった。