僕の住んでいる所は相当な田舎で、だからというわけではないのですが、各家にひとつ程度の怖い話や不思議な話があります。
「~さんとこの家の話はほんと怖いよねぇ」
「~ん家の話は聞いたことある?」
という風に、その辺の地域一帯で、それぞれの家の話を共有しているのです。
今回は我が家に伝わる不思議な話を書かせていただこうと思います。
僕がまだ、小学校高学年くらいの頃のこと。
祖母と母親が、たまたま何かの用事で一日家を空け、その日の晩御飯は、祖父と父と3人で食べることになりました。
男3人で食事なんてことは、これが多分初めてだったと記憶しています。
そんな珍しい雰囲気に多少戸惑いながら、父のよそってくれたご飯を食べていた時。
急に祖父が笑みを浮かべながら僕に話しかけてきました。
「なぁ、タク(僕の名前)よ。
お前にはうちん話、したことなかったっけな」
「・・?うちん話って、うちにも何か不思議な話あるん?」
「おぉ。
お前が怖がるやろうっち思ってな、今まで話さんやったんやが。
そろそろ話してもいい頃やと思ってなぁ。
よかろ?」
祖父は父に許可を求め、父は少し困った顔をしながらも、
「いいですよ」と首を縦に振りました。
そして僕は我が家に伝わる奇妙な話を聞いたのです。
その時に聞いた内容は、本当に細かいところまでは覚えていません。
なにしろ十数年前の話ですから・・・。
でも、いくらかは覚えています。
それはこんな内容でした。
この家は、祖父の祖父が建てた家で、築100年は軽く経過しているのですが。
建てた当時からもうすでに、奇妙な話が家の者によって囁かれ始めていたと言うのです。
それは、
「天井裏に何者かが住みついている」
という話です。
祖父は小さい頃、自分のおじいちゃんの日記を見たことがあったらしいのですが。
そこにもそういう話が書いてあったらしく、子供心に本当に怯えたと言っていました。
そして祖父も、何かが住みついている雰囲気をずっと感じながら、この家で過ごしてきたらしいのです。
僕はその時、父の顔を見て、「嘘やん、そんな話」と聞いたのですが、なんと父は苦笑いを浮かべながらこう言ったのです。
「いや、俺もそんな気配感じたこと何回もあるんよ」と。
僕は当時、父がその話を肯定した事に、ものすごく驚いた記憶があります。
そして祖父に恐々と、話の続きを促しました。
しかし祖父は、
「いや、これだけなんよ。
他に何か特別な話はないんやけど・・・。
何かが住んどるってことだけは、ずっとこの家に伝わっとって。
まぁ100年以上も前からの話やけん、人間が住んどるっちゅう事はなかろうけども。
お化けとか神様とか、そういうんでもなさそうなんやなぁ。
・・・まあ、それだけの話や(笑)」
とだけ言って、豪快に笑いました。
本当ならまだ小学生の僕は怖がってもおかしくない話でした。
なんせ、「天井裏に何かいる」んですから。
しかし祖父の言った、
「人間でもお化けでも神様でもない」
という言葉に何故かすごく安心して、うちの話は他の家のより不思議やなぁ・・・くらいにしか思いませんでした。
それから十数年の間に、母や祖母にその話を何度もしました。
でも2人とも、
「何がおるんやろうねぇ。まあ、気にしとったらこの家には住めんよ」
みたいな返事しか返って来ませんでした。
友達に話しても、
「お前んちの話は妙やなぁ。
うちに伝わっとるのは妖怪の話やからリアリティがないけ、羨ましいわ(笑)」
とか言われる始末。
ただ漠然と「何かがいる」という感覚は、僕もなんとなく感じたりはします。
古い家だから家鳴りがひどいのが原因かもとか、いろいろ考えました。
でも、やはり
「天井裏に何かいるような不思議な気配」
としか言えないような、そんな雰囲気をたまにですが感じます。
僕がこれから結婚して、子供が出来て、孫が出来て・・・。
この家でこれからも世代が変わっていく中で、「天井裏の何か」も、ずっと語り継がれていくのでしょうか。