俺の田舎は山間にある戸数10戸程の小さな村。
毎年11月12日は、夜半過ぎには全ての家の人が消灯して床につく。
何故かって…
100年程昔、明治時代、貧乏な身寄りの無い乞食兄妹が村に流れ着いてきた。
来冬間近の季節、妹は弱ってすぐに衰弱死した。
「妹が死んだ!!
何か食わせればまだ間に合う!!
食い物をくれーー!!」
生き返るはず無いのに…。
真夜中の村を、妹を生き返らせたい一心で少年は駆け回った。
少年の余りに凄まじい様子に恐れおののいたご先祖達は戸を固く閉ざし、ただ震えていた。
翌朝、兄は妹の躯の傍らの木の枝で首をつった。
その翌年から毎年、11月12日の真夜中…
タッタッタッタッタッ、ドンドンドン!!!
その少年の怨霊が、無念を晴らしきれずに村中を駆け回るようになった。
俺も小さい頃はそら恐ろしく、その日は8時には床につき、なるたけ12時には夢の中にいるよう心がけた。
しかし一度だけ、二階の自室から外の様子を覗いていた事があった。
好奇心だった。
真っ暗な部屋のカーテンの隙間から家の近くにある街灯のあたりをじっと観察する。
夜半過ぎ…
二つ隣の家の戸口を叩く音がする…
ドンドンドンドンッ!!
次に隣の戸口を叩く音…
タッタッタッタッタッ…
暗闇から突如街灯の光の中に現れた影。
きたっ!!
街灯に照らし出されたその少年の目はカッと見開かれ、鬼のようであった。
ボロボロの布切れを纏い、草履も履けずに…。
骸骨のような細い手足が印象的だった。
フッと、その少年の顔がこちらを向く。
俺に気付いたのだろうか。
街灯を物凄い勢いでよじ昇りだした。
わぁっ!
慌てて布団に潜り込んで息を潜める…と、部屋の窓ガラスをドンドンドンッ!!と叩く音。
ブルブル震えながらも、その少年が立ち去るのを待つ。
10分…20分…
もう大丈夫だろう。
少し布団から顔を出してカーテンの隙間を見る。
そこには、窓にへばりついてこちらを睨んでいる少年の恨めしい顔があった。
身動き出来ずに、目も逸らせない…。
油汗だけがダラダラ頬を伝う。
しかしその少年は何をするとも無く、やがて寂しげな表情を浮かべると闇の中へと消えていった。
暫くして隣の家の戸口を叩く音。
翌年からその日だけは両親の部屋で一緒に寝るようになった。
今年も恐らくあの少年はやってくるのだろう。
二度と生き返る事の無い妹を生き返らせるために。
嘘のような本当の話。