これは、先日実際に体験した話。
俺はホテルのフロントで夜間勤務をしているのだが、業務の基本は電話番で、その日の夜もぼけーっとテレビを見ていた。
そして、そのテレビの横には監視カメラの映像が映っているモニターが6つある。
このホテルは8階建てで、1階ロビーや駐車場などが色々と映し出されている。
その内2つのモニターが画面を4分割しており、各階の廊下を映している。
廊下を映しているカメラは各階の同じ場所、また同じ角度で設置しているので、画面に表示されている『○F』というのがないと本当にどの階か分からないくらい同じ映像だ。
話を戻すが、テレビを見ていてふと目の端で動くもの感じ、とっさに監視モニターに目をやると、8階の廊下に人が倒れていた。
うつ伏せの状態で、スーツを着たサラリーマンのようだ。
酔っ払いか何かだろうと思った俺は、清掃スタッフに内線連絡をして8階に向かわせたが、電話している間にいなくなっていた。
スタッフからも「いないですよ?」という連絡があった。
自力で部屋に戻ったのかね?なんて話をしながら、いないのならどうしようもないし、まぁいっかと思ったが、再度モニターを見ると、またさっきと同じ人が倒れている。
だが、今度は7階に。
さすがにこれは少し怖くなり、その映像の画面をアップにすると、その人は少しずつ進んでいるのだ。
弱々しい匍匐(ほふく)前進のような感じで。
すぐスタッフに内線電話を入れて向かわせたが、またいない。
ただ今回は目を離した隙に消えたのではなく、画面手前に向かって来て見切れたという感じだった。
現場に向かったスタッフも「いない」と言うから消えたのだろう。
なぜなら、モニターに映し出されている廊下の手前側は従業員が出入りする扉しかなく、現場に向かったスタッフはそこから出入りしているので、その匍匐前進している人にすれ違わないとおかしいのだ。
一人きりでフロントにいるのが無理だと思った俺は、スタッフを1階に呼んだ。
しばらく信じてくれないスタッフと色々と喋っていると、またいたのだ。
今度は2階の廊下に。
二人で目を合わせ、「これはヤバすぎるだろ!」とおろおろしていると、そこに外出していた客が戻ってきた。
1階ロビーで鍵などを渡すのだが、その戻ってきた客が2階の部屋の利用者だった。
これは言った方がいいのかな?と思ったが、どう説明していいのか分からないし、俺達の代わりにあいつに接近してほしいというのもあり、悪いがそのまま黙っていた。
2階を映しているモニターには、まだうつ伏せのサラリーマンがいる。
そこにエレベーターで上がってきた先ほどの客が映ったのだが、普通に素通りしているのだ。
どうも、その人が見えていないという感じで。
しかし、そいつはゆっくりと進んでいる。
その先には、俺達がいる事務所への階段がある。
ドアには『従業員以外立ち入り禁止』と表示されているが、鍵は閉めていない。
スタッフと二人でモニターの前で固まっていると、「ギィィィィ」とドアが開く音した。
モニターには、そいつはもう映っていない。
二人してドアの方を凝視していると、それまでずっとどこか安心させてくれていたテレビの音が突然消え、画面が真っ暗になっていた。
直後、スタッフがいきなり叫び、1階ロビーが映っている監視モニターを指差して腰を抜かしていた。
モニターを見ると、どアップの中年男性が映っていて、口をパクパクさせている。
俺もスタッフと一緒に叫んでしまい、その場から動けないまま朝になった。
気付けばいつの間にか中年男性は消えていた。
あのサラリーマンは一体何だったのだろうか・・・。