ヤドリギ

ヤドリギ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

あんまり怖くなかったらスマン。
ちょっと気になることが立て続けにあったんで聞いてほしいんだ。

自分は子供の頃からオカルトの類が大好きでな、図書館なんかで読んでたのはいっつも日本の民話や世界の昔話の怖いやつばっかりだった。
四国の片田舎で育ったから、遊び場は神社や昔の塚。
小高い丘になってて、中腹に横穴が掘られてて、中に何かを祭ってたり、戦時中は防空壕として使われてたりしてた。
ばちあたりというか、怖いもの知らずというか、そういうところに入り込んでは日が沈むまでやんちゃして。

つまり自分は怖いものは大好きだけど、てんで霊感の類はないんだ。
そんな霊感ゼロの自分の周りには、なぜかいつも霊感の強いやつがいた。

小学校の時だ、同じクラスにAちゃんという霊感の強い子がいた。
うちの母校は戦時中兵隊さんの駐屯地として使われてたり、すぐそばにでっかい軍人墓地がせいか、Aちゃんはよく軍人さんや小さい子供の霊をみていたようだ。
子供心に作り話のうまい子だなあ、と思って面白半分にしかきいてなかったんだが、Aちゃんの霊感の強さは遠足の時撮影された写真が証明することになる。

Aちゃんが写っている写真がおかしいんだ。
赤いオーラが写りこんでるなんてのはかわいいほうで、Aちゃんひとりが大きく写っているはずの写真は一枚は右足がなく、別のAちゃんワンショットは首が無かった。

遠足以来、なぜかAちゃんは自分を避けていた。
意地悪も何もやった覚えのない自分は、ある日の昼休みにAちゃんの仲良しBちゃんに訳をきいた。
Bちゃんは困ったように
「遠足の写真はミナト(自分)のせいだ」と言っているそうなのだ。
自分「どういうこと?」
B「ミナトと一緒に撮ったり、ミナトがそばにいた写真がみんなおかしいって・・・。遠足の後も学校でもミナトがそばにいるといつも変なものを見るんだって。」
たしかによく見直すと集合写真やみんなでゲームをしてる写真など、自分も写っている数枚の写真に赤い光の帯が写りこんでいた。
Aちゃんによると、写っていないだけで他の写真を撮ったときも必ず自分がそばにいたらしい。
自分はカッとしてBちゃんがとめるのも聞かずAちゃんにつめよった。
「何言いがかりつけて人の陰口言ってんだよ!」
Aちゃんは驚いて自分を見ていたが、そのうち様子がおかしくなった。
目をまん丸に見開いてガクガク震えだしたかと思うと「いやああああおおおおぉぉぉぉぉ」と叫んで泣き喚き始めたんだ。
その声を聞きつけた先生に連れられてAちゃんは教室を出て行き、自分はAちゃんをいじめたという罪でこっぴどくしかられた。
それから一ヶ月、Aちゃんは学校に来なかった。

中2の合宿では血まみれの男の霊を見たと隣のクラスの女子が泣き喚き、中3の長崎への修学旅行では原爆の資料館でうちのクラスの生徒と先生が吐いて倒れた。
高2の広島の修学旅行では旅館の食堂の窓が突然割れたりバスがパンクした。

自分はやっぱ団体行動に縁がないと思ってた。

大学進学で大阪で一人暮らしを始めた自分は、売れない漫才師のむっさんと出会った。
むっさんは漫才師としての収入だけでは生活できず、夜はカウンターだけの小さな居酒屋で働いていた。
自分はその頃恥ずかしながら夢があり、大学と生活費を稼ぐためのバイトで忙しく、深夜でも格安の値段でうまいものを食わせてくれるむっさんの店に入り浸っては青臭い夢を語ったり、むっさんの話に爆笑していたんだ。

むっさんは時々、自分の背中をバンバン!と強く叩いたりさすったりすることがあった。
野郎にそんなことされて喜ぶ趣味はないんだが、むっさんにそうされるとなんだか背中が温かく、軽くなった気がして気持ちよかった。
「なあむっさん、それ何やってんの?」
「ああ、これ?」むっさんは笑ってほっけを焼きながら言った。
「ミナトはいっつも何か背負ってるからなー。おとしてやってんだよ。」
背負ってる?
疲れやプレシャーやストレスのことだろう。
自分はむっさんが焼いてくれたほっけを食いながらそう思ってた。
「あんまり体弱らすと背負いきれないもの背負ってもしらねーぞ。」
むっさんが真顔でそう言った時も無理はするなって忠告してくれたんだと思い込み、一人で感動してた。

そんなある日、仕事先のバイト君が自分を飯に誘ってきた。
あんまり職場の人間と行動をともにしないバイト君からの誘いに驚いたが、断る理由もなく、バイト君と居酒屋へ。
あまりお互いのことを知らなかったこともあり、自己紹介的な話をしつつ、二品、三品食ったところでバイト君が切り出した。
「僕ね、あんまり人と飯に行くの、好きじゃないんです。その理由わかります?」
「はぁ?なんで?」
「例えば3人で居酒屋行ったりするでしょ、でも僕にだけは3人以上の人数が見えるんです。」
「・・・はぁ。」
霊感商法ってやつですか。正直あきれたのと同時にバイト君の誘いに応じたことを後悔した。
「たいていみんな信じてくれないし、僕も見えちゃうとしんどいし、めったに人には言わないんですけどね。」
自分の考えを見透かしたようにバイト君が苦笑した。
「でも、あえて言いますね。ミナトさん、あなた日替わりで色んなもの連れすぎですよ。」
何言ってんの、こいつ。
何も言葉が出ない自分に対して、バイト君は静かに続けた。
「ミナトさんは、まるでヤドリギみたいに色んなものがやってきては離れていってます。
 それ自体は問題ないんですよ。ミナトさんはどうやら見えてないみたいでまったく気になってないみたいですし。」
バイト君は下戸だそうで、ウーロン茶を一口飲んで続けた。
「でも、時々僕が同じ部屋にいるのがつらいくらい強いものがしがみついてるときがあります。もう見てられません。専門家に見てもらったほうがいいですよ。」
自分は唖然としたんだが、専門家=精神科=基地外
そういわれた気がしてな。
「病院なんか行く必要ねえよ!」ってどなってしまったんだな。
でもバイト君はひるまなかった。
「信じてもらえないのは分かります、でも今のままだといつかミナトさんに実害があるかもしれないんです。
時々ミナトさんの周りで温かい空気を感じるんです。残業で遅くなった夜とか。
ミナトさんの相談に乗ってくれてた人いませんか?その人が心配のあまり気を送ってくれて守ってくれてるんですよ。」

むっさん。

とっさにむっさんの顔が浮かんだ。
自分はそのまま、バイト君を連れてむっさんの店に向かった。

久しぶりに会ったむっさんは驚くほどやつれていた。
自分の顔を見るたび「おせえよ!」と真顔でどなった。
店にはたまたま他に客もなく、自分とバイト君、むっさんの3人だけだったが、むっさんのそんな顔を見たのは初めてだった。
「あーミナトさん、この人ですわ。」とバイト君がささやき、バイト君はむっさんになぜ店にやってきたかを手短に説明した。

むっさんは自分たちをカウンターに座らせ、自分は料理を仕込みながら話し始めた。

「俺な、昔から霊が見えたり、ちょっとした霊なら追っ払ったりできてたんだ。
お前にもやっったことあるだろ、背中さすったり叩いたり。なぜかアレで離れていくんだ。独学だし理屈はわかんないけどな。」
むっさんの暖かい手を思い出した。
「でもお前が始めてうちに来たときはびびったよ。ジジイやガキ、犬猫、はては何か分かんないものまで背負ってたからな。
これは俺の推測だけどな、お前は色んなものを呼んじまう体質なんだろ。色んなものがお前については離れていく。
例えるならヤドリギみたいなもんだな。
お前の生まれた土地や血縁の影響かもしれんが、素人の俺にはわからん。」
バイト君と同じようなことをむっさんも言った。

「もうひとつ分かってるのは、おまえ自身には何もないのに、周りが影響を受けるってことだ。
人間ある程度の霊感を持ってるやつはごろごろいる。でもお前といると、それが増幅されるんだ。
俺も、お前をここに連れてきてくれたこのバイト君も、今までお前の知らないところで影響を受けて霊におびえてたやつはいるはずだ。」
小学校のAちゃんや中学の同級生、高校時代の出来事もそうなんだろうか・・・。
むっさんに話してみると「おそらくそうだろうな。」とあっさり言った。

「問題は、今おまえの周りをうろうろしてるやつだ。
これからお前の周りで変なうわさが流れ始めたり、体調を崩すやつが続出したり、もしかしたらダイレクトに「そいつ」を見てしまうやつがでてくるだろう。」
「そいつは待ってるんだ、まずお前の周りを弱らせ、おまえが人間関係に疲れ仕事に疲れて弱るのをまってるんだ。
計算高くてたちが悪い、お前に恨みがあるんじゃないと思う、なんで他のやつみたいに離れていかないのかも分からない。
何が目的かも分からない、ただお前が呼んじまったんだ。」
むっさんが自分のすこし後ろをにらみつけてるような気がして、思わず振り返ったけれど、自分には何も見えなかった。
「もしかして電話くれたりメールくれてたのって・・・。」
「ああ、なんか胸騒ぎしたり、夢にお前が出てくるようになって心配だったからな。まさか俺が心配しすぎてバイト君にまで伝わってるとは思わなかったけどな。」
むっさんがバイト君を見て笑ったけれど、バイト君は眉をひそめて黙り込むばかり。
「俺が助けになるなら力になる、しばらくうちに通え。」
むっさんはそう言った。

後のオチはお約束どおりだ。
むっさんは自殺した。
むっさんの相方はネタが書けなくなって悩んでいたといっていたが、そんなことで自殺するような人じゃないのはむっさんを知る誰もが知っていた。

バイト君は重度の鬱でバイトをやめた。
一度バイト君の実家に電話をしたが、バイト君のお母さんがでて「あなたのせいで!」と訳のわからないことをわめいていた。

同僚の女の子がおかしな音がすると言い出した。
警備会社が変わった。
主任が事故にあった。
同僚が転勤を申し出た。

「社員旅行の写真におかしなものが写っている」

そんなうわさが流れ始めた。
なぜかだれもその写真を自分には見せてくれない。

去年の年末、上司にしばらく休むように言われた。
特に大きなミスをした覚えもない。
食い下がったがとりあってもらえず、今休職中でネットやってます。

今も自分の後ろで何かが言ったりきたりしてるのか、それとも自分の背中に張り付いたままのやつがいるのか、自分にはわかりません。

全然怖くなかったな、長文駄文すんませんでした。
つきあってくれてありがとう。

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