くずは

くずは 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

もうかなり昔の話なんだけど、俺の家は昔、珍しく狐を飼ってたんだ。
家はかなり田舎で、近くに野生動物がたくさん住んでた。

んである日、じいちゃんが狐の子供を拾ってきた。
どうやら親が死んで傍に居たのを、可愛そうに思って連れてきたらしい。
それで飼う事になった。

母ちゃんは嫌がってたけど、ちゃんと病院につれていって寄生虫やら何やらの検査もした。
名前は「くずは」って名前になった。
命名は中二病をこじらせてた婆ちゃんで、安部清明の母親の妖狐の葛の葉からとったって言ってた。
まぁ雌だったし。

意外と知られてないけど、狐って人にめちゃくちゃ懐くんだよ。
家族全員でそりゃ可愛がったな。
かなり馬鹿だったけど、それでも学校から帰ってくると鼻をフンフン言わせてすりよってくるくずはは可愛かったな。

そして、俺が17歳のときにくずはは死んだ。
享年10歳、本当に悲しかった。
人生初の家族の死はかなり精神的にもきた。
家族全員かなり落ち込んだな。

でもそこでも中二病全開の婆ちゃんは、くずはを稲荷神社に連れて行こうって言った。
んで、稲荷神社の神主さんに無理言って埋葬してもらった。
滅茶苦茶嫌がってたけどな。

婆ちゃんいわく、
「これでくずはもお稲荷さんになる修行を始められる。家から神様がでるんや」
って言ってた。

悲しかったけど、俺もこれで結構踏ん切りがついた。
心の中で、お稲荷様になる修行がんばれよって思った。
まぁ馬鹿狐だったけどな。

それから時間がたって俺が大学生のとき。
当時一人暮らしをしてた俺に、ある日くずはが夢に出てきた。
相変わらず俺の言うことを何一つ理解しない馬鹿っぷりだったが、一緒に遊んでスゲェ楽しかったな。
お前ちゃんと修行してんのかよとは思ったが。起きたとき、あれが夢とは思えないほどリアルな夢だった。
しかし最悪なことに、起きたとき物凄い倦怠感と吐き気、頭痛に襲われた。
そりゃもう立ち上がれないほどの。

しょうがないので救急車を呼んで緊急入院。
ほんと、何しに夢に出てきたんだよって思った。
入院して二日目ぐらいだったかな、大分体調がよくなったとき医者が俺を呼び出した。
行ってみると微妙な面持ちで、
「先日の突然の体調不良の原因はわかりませんが、精密検査の結果もっと大変なことがわかりました。
腎臓に癌を発見しました」

本当に一瞬「え?」ってなったけど、詳しく話を聞くと、腎臓に超初期段階の癌を発見できたらしい。
腎臓癌ってのは発見がとても難しく、たいてい症状が出始めたころは手遅れな場合が多いらしい。
今回は偶然の入院で精密検査したからわかったと。
このままにしておいたら30歳は迎えられなかったかもしれないと。
でもあの謎の体調不良の原因は、全身精密検査でもわからずじまいだった。

そして俺は、片方の腎臓を摘出して今も元気に暮らしてる。
俺はもしかしたら、くずはが教えてくれたのかもしれないって思ってる。
ただの思い込みかもしれないけどな。

あれからずいぶんの時も経ったし、あいつも今頃は立派なお稲荷様になってるかもって最近思う。

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