棺桶の中から

棺桶の中から 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

僧侶をしている者です。
仕事柄色々な方のお別れに立ち会わせていただいております。
これと言って怖い思いをしたことはありせんが、不思議な経験をしたことはあります。

数年前のまだ春浅いころ、私の檀家のまだ20代だった息子さんが都会の勤務先で仕事中に突然倒れ病院に搬送されるも治療の甲斐なく亡くなられました。
ご遺体は棺桶に入れられ、都会からご実家に無言の帰宅。
私は知らせをもらって急ぎお悔やみに行ったのです。

ご両親は憔悴しきったご様子でしたが、気丈に振る舞っておられました。
私は棺桶のご遺体に合掌し、仏壇で読経始めようとしたその時、突然携帯の着信音が鳴りました。
同席者はみな慌てて自分達の携帯を確認しますが、誰の携帯でもなく…

音源を探ると、ご遺体の付近 つまり棺桶の中から聞こえて来ます。
葬儀会社の方が「失礼します」と言って棺桶の蓋を取ってご遺体の付近を探しますが、携帯はありません。
ご遺体ご本人の携帯は2階のご本人の机に置いたとお母様がおっしゃるので親戚の方が2階に確認に行きましたが、置いたはずの携帯は見当たらず…その間もずっと着信音は鳴り続け…
最期にご本人が身に付けていた持ち物や服もひっくり返して確認しますが、見つかりません。
しかし鳴り続ける着信音は確かに棺桶の中から聞こえます。
何度棺桶を探してもやはり見つかりません。

結局 音源を探し当てることができないまま、やがて着信は止まりました。

読経を終えてお通夜や葬儀の打ち合わせを済ませた帰り際、私に葬儀会社の方がそっと「でも、確かに棺桶の中から聞こえましたよね」と小声でおっしゃいました。
私は「ええ、確かに。私にもそう聞こえました」とこたえました。

葬儀の後、携帯はやはり2階の机にあったそうです。
あの時の着信があったかどうかの確認は出来ませんでしたが…
もし着信履歴が無かったら、一体誰の携帯が鳴っていたのでしょう。

しかも棺桶の中で……

そして一体誰からの着信だったのでしょう。

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