これはある元登山家から聴いた話だ。
その人が現役時代にある山を登山中に一人の山伏と遭遇した。
顔の堀が深く外見は外国人ぽかった。
「どうも、お疲れです!」
と山伏へすれ違い様に挨拶をした。
すると
「この山は危ない、すぐ下山した方が良い」
という返事が返って来た。
空を見上げてみても雲一つ無い日本晴れ。
天気予報のキャスターも一週間はこの晴れ空が続くと自慢気に言っていた。
だが、山伏だって山のプロだ。
念の為に一緒に下山する事に決めたらしい。
そして登山道入口である細い国道の所に出た。
山伏は
「出来ればもう、この山には来ない方が良い。
今から山を戻すから向こうを向いていなさい」
と言った。
「山を戻す?」
どういう意味だ?
神事かお祓いだろうか?
そういう素朴な疑問が沸いて来る。
一応山から目を逸らす。
が、すぐに視線をチラリと山に戻す。
動いていた…
大きな骨の様なモノが山の木々の間から見え隠れしていた。
ゆっくりと山は山奥へと進んでいく。
呆然としてその光景を観ている事しか出来なかった。
いつの間にか山伏の姿も消えていてもう空は真っ赤に焼けていたという。