クローゼット

クローゼット 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

私が大学3年になり、一人暮らしを始めてからしばらく経った時のこと。
独立してから半年も経つと、生活に慣れてきてしまい、悪い面を言うと私は無用心になった。
というのも、出かけるときは鍵をかけないで外出してしまうのだ。
部屋には盗られるものもなく、貴重品も金品も置いてない。
さらにいくと、鍵を部屋に置いたまま外出することが日常になってしまった。

しかし、ある日のこと。
外出から帰ってくると部屋に鍵がかかっていた。
かなり焦ったがとりあえず隣に一軒家を構える大家さんのところへ行った。
この大家さん、年齢がかなり行っていて良い人なのだが頼りない。
鍵がかかっていることを伝えてマスターキーを出してと頼んだところどうやら無くしてしまったらしい。

私の部屋を開けられる鍵は全部で3つ。
私が持っている鍵と、大家さんのマスターキー、そして私の実家で預かっている鍵。
しかたがないので1時間かけて実家に帰り、鍵を借りて、ようやく帰宅することができた。

ここで謎が残るのだが、誰が鍵を閉めたのか、という点。
可能性として一番高いのは、私なのだが、帰宅すると部屋に鍵は落ちていた。
つまり、鍵がかかっている間、ずっと私の鍵は部屋の中にあったのだ。
大家さんに問いただすと、誓って鍵をかけてないと言う。
そうなると、ある可能性が浮上してくる。
考えたくもない恐ろしいこと。
部屋の中に私以外の誰かがいる。
私の部屋はとても狭く、人が隠れる場所は風呂場とクローゼットぐらい。
不気味な気配を発するクローゼットを恐る恐る開けてみた。

・・・・いた。まさかいるとは思わなかったが本当にいた。
「ああああっ」
と声を上げ、情けないぐらい驚いた。
同い年ぐらいの女だった。
しばらくお互い沈黙を続け、私はだんだん冷静になり、距離をおきながら状況を把握した。
この女、知っている。
半年前に告白をしてきた女だ。
顔も名前も知らない女だったので、不気味に思い丁重に断ったのだが、それでも女が何度も告白してきたのを覚えている。
とにかく顔が嫌いだったので次第に無視するようになったが、それ以来会うこともなく諦めたのだと思っていた。

女はずっと黙って、笑いもせずうつむいていたので、かわいそうとは思ったが、事が事なので、私は警察を呼んだ。
女は私を見ることもなく警察に連れて行かれた。
深夜だったので今日のところは休んでくださいと警察言われ私はようやく部屋の中で一人になれた。
眠れない夜であった。

翌日から、私は必ず鍵をかけて外出するようにし、この事件には関わりたくないので、警察に任せることにした。
その女が2度と会いにこないことを条件にして。

しかし、その事件の翌日の夜も、部屋の中で人の気配を感じた。
私の神経は敏感になっていたので幻聴が聞こえているのだろうと思った。
何かがうっすらと聞こえてくる。
部屋にテレビはない。
音を発するスピーカーの類もない。
隣の部屋から聞こえてきているのだろうと思い始めたが、壁に耳を当てても、どうも違う。
部屋の中から聞こえてくるのだ。
次第にそれは、人の声であることがわかる。
あの女の声だ。1時間以上も聞こえるのでもはや幻聴ではないと確信していた。
確かに、あの女の声でボソボソと何か言っているのが聞こえるのだ。
また、あの恐怖が戻ってきた。
今度はもう冷静にはなれない。
クローゼットを開ける勇気もなかった。

部屋を飛び出し、近くに住む友達に電話をかける。
訳を話すと、友達はすぐに私のもとへ来てくれた。
友達は一緒にクローゼットを開けてくれるという。
刃物を持っているかもしれないからくれぐれも気を付けよう、と。
その言葉だけで頼もしかった。
友達と部屋に入ると、まだ女の声がかすかに聞こえる。友達もそれを認識した。
友達は声を荒らげてクローゼットに向かって啖呵をきった。
「オラァァァ!!出てこい!!」
反応がない。
しかし、まだ、ボソ・・・ボソ・・・と女が声を発しているのが聞き取れた。

「開けるぞぉ!!」
興奮した友達がクローゼットを開けた。
私は一歩下がってしまった。

・・・・今度は誰もいなかった。

声がするのに誰もいない。
私と友達は顔を見合わせ、互いに青ざめた。
あいかわらず、声は聞こえる。
声は少し聞き取れるように大きくなっていた。
近くにいる。しかし、クローゼットには闇が広がったままだ。
そして、友達はクローゼットの下、衣服と衣服の間に、あるものを見つけた。
ICレコーダーだった。
声の発信源はこれだった。
幽霊でなく、本人でもなくて何よりだったが、私は耐え難い気持ち悪さを感じた。

ICレコーダーに耳を当ててみた。
女の声がようやく聞き取れる。
私は嘔吐してしまった。

「○○(私の名前)好き。 ○○、帰ってきた。見つけて。 ○○と一緒がいい。 ○○、○○・・・」

と繰り返し再生されていたのだった。

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