あたしじゃない

あたしじゃない 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

映像系の専門学校に通っているF君のもとに、幼馴染のA君から電話があった。
「俺、結婚することになったんだ」と、弾んだ声をしている。

「ええっ、おめでとう。で、相手はだれ?」
「一度会ってるよ。Rちゃんだよ」
「ああ、あの娘か」

A君は彼女との結婚の報告とともに、F君にお願いがあるという。

「お前、映像の勉強してんだろ? 結婚式でわっと盛り上がりたいじゃん。
そこをビデオ撮影して、DVDに焼いてもらいたいんだけど。俺と彼女の記念にさ」
「わかった、喜んで引き受けるよ」

当日、結婚式から披露宴、そして二次会の様子をビデオカメラで撮影した。
特に二次会は三、四十人が入れるカラオケのパーティ会場を貸り切って大いに盛り上がった。
そしてA君夫妻が新婚旅行へ行っているあいだに、撮った素材をもとにパソコンで編集した。

映像が完成した頃、A君から電話があった。

「今度の日曜日に、身内でこのあいだ撮ってくれたビデオの鑑賞会をしたいんだけど、当日の夕方頃にDVDを持ってきてくれないか?」

F君は編集済みのDVDを持参して、A君らと一緒に見た。

二次会のシーンとなった。カラオケルームでの風景だ。
着飾った新婦のRさんが画面に映った。幸せそうな顔がアップになる。

「これ、あたしじゃない。あたしじゃないよ」Rさんが大声を出した。
「なに言ってんの、これお前じゃん」A君がたしなめる。
「ちがうよ。絶対にちがう。誰?この女誰なの?」なにか尋常でではない。

しかし、モニターに映し出されているのは紛れもないRさんだ。
その場にいたメンバーは、Rさんのことを心配しはじめる。
みんなでRさんをなだめようとするが、Rさんは、DVDをデッキから取り出すと、真っ二つに割った。
周りの空気が凍った。

「ごめん、ちょっとコイツ、今日はヘンだ。体の調子でも悪いんだろ。
今日はこれでお開きにしよう。ごめんなさい。今日はみんな、帰ってくれますか」

A君にそう言われて、面々はA君宅を後にした。
徹夜して編集したDVDを無惨にも割られてしまったF君は、やるせない思いだった。

何日かして、F君のもとにA君から電話があった。

「俺、Aだけど・・・・・・」声の調子がおかしい。
「俺の奥さん、・・・・・・死んじゃった」
「おいおい、また悪い冗談だろ」
「こんなこと、冗談で言えるかよ」

あのDVD鑑賞会の翌日のことだそうだ。
Rさんは、二次会の会場だったカラオケルームに一人で予約を入れた。その部屋で首吊り自殺をしたという。
フロントにつながる電話のコードを首に巻きつけて亡くなったらしい。

家族も親戚も騒ぎ出した。そんな死に方をする意味がわからない。あんな死に方ができるものか。
あれは誰かにコードを巻きつけられたんじゃないか、という意見が出ている。

そしてなにより、自殺の動機がわからない。
挙式をしたばかりの新婚夫婦である。幸せの絶頂のはずだ。

当然、警察が現場検証するわけだが、なにを聞いても「自殺です」というばかりで、なにかを隠している様子がある。
「カラオケルームなら部屋の様子をビデオで撮っているだろ。それを見れば、わかるんじゃないの」とF君は言う。
「それがね」と、泣きそうな声でA君が答える。

当然、警察はカラオケ店にビデオの提出を要求した。そこには死に至る一部始終が撮られている。

F君たち親族は警察に、ビデオを見せて欲しいと訴えた。
すると警察は、う~んと唸った後、「見ないほうがいいでしょ」と言った。
Rさんの両親は、どんなことがあっても見せて欲しいと執拗に食い下がった。
どんな死に方をしたのか、娘が生きている最後の姿を見たいという。

「なんで見せられないんだ?」
「そこがわからない。けど、最終的に警察が折れたんだ」

「わかりました。こうしませんか。皆さんの見たいという気持ちはわかります。でも、見せることは出来ません。
ですが、お父様だけにお見せしましょう。
お父様がご覧になって、それでも皆さんにお見せするべきか、判断してください」

担当の警察官は言った。
父親は警察官と二人で別室に入っていった。

しばらくして部屋から出てきた父親は、憔悴して虚ろな目をしている。
「お父さん、見たの?」「ねえ、どうなったの」皆で問い詰めたら、父親はひと言「見ないほうがいい」とだけ言って口を閉ざしてしまった。

「結局、なにが映っていたのか、なにがあったのかは、俺たちには言ってくれないんだ」
「いったい、それ、なんなんだ?」
「それは俺が知りたいよ。で、お前が撮ったビデオがあるよな。それもう一回、見せてくれないか」

翌日、F君はDVDを持ってA君の家へ行き、映像を一緒に見た。
二次会のパーティの模様。皆は楽しそうに騒いでいるし、うたっている者もいる。
カメラは新婦であるRさんを中心に撮影している。
ところが今度はRさんの声だけが、一切モニターされなかったのである。

結局、Rさんが何故この映像を見て ”自分ではない” と思ったのかは、わからなかった。

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