子供の頃、まぁ小学校の頃って飼育小屋で生き物飼ってた事を覚えている人は多いと思う。
なんで飼ってるのかとかは分からなかったけど生き物係とかもあったのを覚えている。
俺は生き物が好きだったから小学1年からずっと生き物係をやっていたんだ。
うちの小学校では確か兎と鳴かない鶏、あと小さな池に金魚とかがいっぱいいた。
で、俺は小学校1年の時に大阪から転校して来たんだ。
で、その時登校する道が同じだったのが友人だった。これをOとでもしておく。
Oは頭が良くて色んな事を知っていた。
運動は得意だったけどあまり好きじゃないタイプだった。
目立つのが好きじゃなかったんだと思う。
なんて言うか独特な奴だった。
Oは小学1年からの付き合いで3年生位までは学年でも凄い出来た生徒だった。
多分皆がこいつは私立に行くんだと思っていた。
けれど4年からOはテストでいい点を取れなくなった。
いや、取らなかったのかもしれない。
目立つ事があまり好きじゃなかった奴だし。
そんな時だった。
夏休みが終わってからだったかな、俺のクラスで飼っていたメダカが死んだ。
最初は皆寿命で死んだんだと思ってたし、俺は1匹が死んで水が腐ったんだろうと思った。
だが、先生方が何か騒いでいたのを覚えている。
と言うのも後日判明したのだが別のクラスでも飼っていたメダカが死んでいたのだ。
さて、こうなると学年ではメダカを殺した奴がいるんじゃないか、という話で持ち切りになった。
やっぱり男子ってこういう話が好きなのもあってあいつ犯人じゃね?とか9組の奴等がやったんだ、と言う話で盛り上がっていた。
俺は生き物係だったこともあって生き物を悪戯で殺されたのが許せなくて犯人探しに躍起になっていた。
そこで別のクラスになっていてOに相談してみた。
因みにOのクラスのメダカは死んでいなかった。
俺 「メダカ殺したのって誰だと思う?」
O 「流石に分からないなぁ、皆が言う通り9組の人だとしたらすぐに分かるだろうし……やっぱり病気じゃないかなぁ」
俺 「えー?そんな一気に二つのクラスのメダカが死ぬの?」
O 「分からないな……まぁ水が汚れないと一気に死なないと思うし誰か毒でも入れたんじゃないの?」
こんな感じの話をOの家で話してたのを覚えている。
毒。そう言われても俺はぴんと来なかった。
当たり前だ、小学生が思い浮かべる毒のイメージなんて瓶に入った物とか、手をつけたらあっという間に溶ける塩酸みたいな物しかない。
身近な毒物がどういう物かなんて分かるはずもなかった。
そうして犯人探しのブームも過ぎ去り、冬になった頃だった。
3件目の事件が起きた。
池の魚が死んだ。
池と言っても中庭の小さな池だったんだがそこの魚が大量に浮かんで死んでいるのが見つかり大騒ぎになった。
俺はこの中庭の池が好きでよくここでミズカマキリとか取っていたから凄いショックだった。
そう、そこから俺の悪夢が始まった。
俺がよく中庭に来ているのは皆が知っていた事だった。
つまり、犯人探しの矛先は俺へとだんだん向かい、俺が池に毒を流した風潮が出来た。
勿論俺はそんなことはしないし、俺が生き物が好きなのを知っている人は庇ってくれた。
俺は渾名が虫博士だったがその時から一部に虫殺し博士と死神言う不名誉な渾名を付けられてしまった。
そんな時俺の事を真っ先に庇ってくれたのがOだった。
俺はこいつは一番の友達だと本気で思った。
多分親友的な物だと思っていた。
クラスで遊ぶ友達が減った俺はOの家に入り浸る様になり、スマブラにハマった。
冬休みはOとスマブラやりながら真犯人は誰かと言う話をした。
俺 「池の魚殺したの誰なんだろうな。」
O 「誰かは分からないが、多分そいつは今頃笑っているか、苦しんでるかのどっちかだと思うよ。」
俺はこの時のOの言った事があまり良くわからなかった。
結局その後は普通にスマブラやって帰ったの覚えている。
冬休みが明けて進展があった。
クラス替えに移る前の大掃除で掃除用具入れにあったある物が見つかり大騒ぎになった。
それは洗剤だった。
俺のクラスの洗剤は大分減っていたのもあって夏休み前の大掃除の後先生が予備で買い足していたんだ。
しかし、その新しい筈の洗剤は殆ど入っていなかった。
先生に女子が洗剤がない、と報告しに行ったその時、皆の目が俺を疑う目になっていたのを覚えている。
俺は大掃除が終わった後先生の所に行って話をした。
まぁ子供らしい話で、真犯人を見つけて俺が無実だって証明したいから手伝ってと相談したんだ。
先生は困った顔しながら分かった分かった、と言いながら俺を軽くあしらった。
そして終業式の時の帰りの会の時だった。
今でも忘れられない。
先生 「皆、目をつぶって机に伏せてください。……洗剤を勝手に使った人、怒らないので手を挙げてください。」
誰も動く音がしない。当たり前だ。
俺はこの先生は大馬鹿野郎のトンチキ野郎だと思った。
そして5年生になった。
俺は虫殺し博士の渾名も皆飽きたのか呼ばれなくなって安心してきていた。
Oは相変わらず別のクラスになったままだった。
俺は生き物係を継続してやるかどうか迷ったままだったがだれもやらないなら、と言う事で結局やり始めた。
因みに他がどうかはしらんが俺の所は56年生から小屋の掃除とかもやるようになるのがルールだった。
課外活動で生物クラブに入った俺はこの頃がとても楽しかったのを覚えている。
虫とか爬虫類を色々飼って親に怒られたなぁ。
そんなある日の事だった。
確か六月位だったと思う。
不審者が生き物を殺している、との噂が廻ってきた。
実際只の噂じゃなく、被害が出た事もあり、そこそこのニュースにもなっていた。
結局連絡網に最近猫や犬を殺している人が出回っている可能性があり、登下校は気を付けるようにみたいな事が書いてある文が書いてあった。
登下校は集団登校と下校になって面倒くさかった。
それから暫くしてからだろうか。
ばらばらになった猫が発見されて大騒ぎになった。
そしていつものように山に虫取りに行った俺は犬の死体を見つけて交番に行った。
流石に只事ではない、となって警察の人達も巡回しだしたその時だった。
鶏と兎が殺された。
朝の朝会で校長先生が命の大切さについて話していた。
俺はクラスの奴から犬の死体を見つけたこともあって犯人扱いされていた。
学校に行きたくなくなり、Oと連む時間が増えた。
しかし、暫くしてこの話は収束を迎えた。
警察が犯人を捕まえたのだ。
犯人は猫の鳴き声が嫌いだから、と言う理由で暴れた事もあるおっさんだった。
犯人も捕まったしよかったよかった、となり、俺の冤罪も晴れてこれで今まで通り……になる筈だった。
俺は何かおかしい、と思った。
と言うのもまず、俺が見つけた犬の死体は学校から2キロは離れた場所だったのだ。
更に警察の人と確認した時は分からなかったが後から野犬だと判明したのだ。しかも野垂れ死に。
つまり犬は関係ない。
それを俺は学校で「犬が殺されている!」と勘違いして騒いでしまった。
兎はそれに合わせる感じのタイミングで殺されたのだ。
あれ?
もしかすると兎と鶏を殺した奴って他にいるんじゃないか?
そう思いながら実は犬が野垂れ死にしていた事を誰にも話さないまま学校は卒業した。
なんと言うか……誰にも話してはいけない気がしたんだ。
俺が犬が殺されていると話した相手はO含めた何人かだったからそこから話していった人に犯人がいるんじゃないか、って思ったんだ。
何故なら部外者が学校に入って飼育小屋の扉を壊して生き物を態々殺すなんて面倒な事するとは思えないし、メダカの事はおっさんが関係してるとは思いにくい。
そう考えた俺は誰にもこの考えを話さないまま中学に進んだ。
中学に入ってからはOは地域別の中学に移って疎遠になった。
中学では特に何もおかしな事は起きなかったし、問題も一つしか起きなかった。
しかし、ここで俺はあるヒントに気付くことになる。
それはクラスの流行りで休み時間に筆箱を開けて中にイタズラをする、と言うしょうもないものだ。
俺も何度かやられて何か仕返しをしてやりたくて、筆箱を開けると防犯ブザーのピンが抜ける様にして筆箱を態と置いて外に出た。
案の定誰かが引っかかって防犯ブザーがなり、それ以来俺の筆箱には誰もイタズラをしなくなった。
その時の友人に話を聞くと、
「筆箱開けたら大きな音がするのは分かったからあまり相手にしない方がいいや、と思った。」
と言われた。
この時俺はハッと気付いたことがあった。
鶏である。
「音が出るから触りたくない。」と言われて俺は気付いた。
外部の人間が飼育小屋を覗いて鶏がいた場合態々殺しに入っていくのか?
普通は鳴く鳥がいるのに入ろうとする人はいないだろう。
なにせその場でとっつかまるのが関の山だ。
だが犯人は鶏も兎も殺していた。
鶏が鳴かない事を知っていなければ普通は出来ない。
しかも小学校の鶏が絶対に鳴かない事はあまり知られていなかったのだ。
親は勿論、学校の生徒も知っている人は余り多くなかったと思う。
この事に気付いた時俺は犯人がだんだん絞れて来た気がした。
そして高校生になってから俺とOは又同じ高校になった。
俺は髪の色を染めたがOは染めなかった。
やはり目立つのが嫌いなのは変わってないんだな、とちょっと思った。
そして心の中の疑念に気付かない振りをしてOとまた友達付き合いをしだした。
やっぱりOはスマブラが強いままだった。
でも何か。何かが違う気がした。
Oは小学校の時と比べて少し……少し影が増えた気がした。
でもそれが大人になることだって思っていたんだ。
Oは頭が良かったし大人なんだって思っていたんだ。
そして高校3年生になった時だった。
受験シーズンが終わり、Oの家でのんびりしている時だった。
Oが飲み物買って来る、と言って外に出ている間だった。
俺はOの部屋でゴロゴロしながら何か面白いゲームでもないかな、とゲーム棚を漁っていた。
そして、Oの本棚が目に入った。
ちょっとだけ、Oの本棚が気になって本棚を漁った事を今でも後悔している。
俺はエロ本とかあったら弄ってやろう程度だったんだ。
本棚には彼が好きそうな推理物がたくさん詰まっていた。
だけど、その推理物は既に埃をかぶっておりもう読まなくなって日が立つことを示していた。
代わりに目に付いたのは何度も読み返したであろう跡が残る本だった。
パリ人肉殺人事件の本だった。
そしてもう1冊は絶歌だった。
何だろう、この感覚は。
まるで見てはいけないものを見てしまった気分だった。
よく見るとOの持つ本は共通して人が死ぬ物ばかりだった。
メダカ、池の魚、犬の死体、兎と鶏、を無意識の内に結び付けようとしていた。
毒を入れたんじゃないか?」
Oがそう言ってから洗剤は見つかった。
「音が出るかもしれないから触らねぇよ」
Oは鶏が鳴かないことを知っていた。
犬が殺されていた、と勘違いして話した相手はOだった。
もしかすると。もしかすると。
でもあの時Oは庇ってくれた。そんな奴が犯人な訳がない……俺がそう思いかけてから引っかかったものがあった。
庇ってくれたからOじゃない、と言う証拠はどこにもない。
パリ人肉事件 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%AA%E4%BA%BA%E8%82%89%E4%BA%8B%E4%BB%B6
絶歌 – Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%B6%E6%AD%8C
1997年に発生した神戸連続児童殺傷事件の加害者の男性が、「元少年A」の名義で事件にいたる経緯、犯行後の社会復帰にいたる過程を綴った手記
Q
疑心暗鬼過ぎない?
A
自分でもそう思ったし、これ以上は失礼過ぎる、何よりこいつは友達なんだ、そう思った。
でも俺はこの浮かんだ問題をほっぽり出したくなかったんだ。
俺はOと別れた後、居てもたってもいられなくなり、小学校に電話をした。
しかし、誰も当時の時の先生はおらず、無駄足かな、と思った時だった。
確か6年生の時の担任が卒業と同時に定年退職していたのだ。
俺は当時の連絡網を漁り、急いで電話をかけて話す時間を頂いた。
数日後、俺は先生の家にお呼ばれして思い出話に花を咲かせながら、当時の事について切り込んでみた。
兎が殺された事に関して隠している事はありませんか、と。
先生は顔を怪訝そうに曇らせた。
俺は何かあったと確信した。
先生は深くため息をついてから喋り出した。
まず、おっさんは猫は殺したが、兎と鶏は殺していない事。
次に警察からもしかすると内部犯の可能性がありますが、捜索しますか?と言われて断った事。
そして、親に連絡網を回して犯行時刻に誰がいなかったか、が分かった事。
俺はそこでその中にOはいましたか?と聞いてしまった。
先生はびっくりした表情でO君を疑っているのかい?と聞いてきた。
俺は少し迷ったが頷いた。
Oは犯行時刻に家にいなかった。
しかもそれだけではなかった。
実はOはメダカの件の時から何人かの先生に疑われていたらしい。
しかし、教師が生徒を疑うような事は大きな声で言えないし、何より学校側は黙認したがっていたこともあったからだ。
しかし、兎の件の後、先生方はOが犯人である、との見方が強まった……と言うよりほぼ確定したようなものだったらしい。
と言うのもOは小学3年生の時位から態と点数を落として目立たない様にしてたり、体育の時間の時もあまり他人と関わらなかったり、と気になる部分が増えた。
しかし、それでいて異常にプライドは高く、馬鹿にされたりするのが大嫌いであり、そのストレスを物に当てたりして発散していたらしい。
特に4年になってからはその傾向が強まり、このままでは良くないのでは、と思った矢先にメダカが突然死んだらしい。
教員の中にはOが自分のクラスのメダカを可愛がっているのもありそんなことをする筈がない、という話も出たらしく、結局有耶無耶になってしまった。
しかし、先生はOが犯人だろう、と思っていたらしい。
と言うのも先生はOが自分が大切にしているものはすごく大事にする事を知っていたからだ。
つまりストレスのはけ口として生き物を殺すようになったが自分が可愛がっているのは殺さないタイプではないか、と。
自分の所有物を傷付けられるのは我慢ならないタイプでは、と。
そしてメダカが死んでからは目に見えて彼の態度も良くなり、誰かとぶつかる事もなくなった。
だが誰もOに問いただす事はしなかったし、許されなかったらしい。
もしOが暴れ出したら……そうなった場合どうなるかは予測できなかった事もあり、戦々恐々とした日を送っていたとの事。
俺はそれを聞いて何故あの時Oが俺の事を庇ったのかが分かった気がした。
俺達の間に対等な友情関係等なかったのだ。
いつからかは分からないがOは俺の事を所有物として見ていたのだ。
俺は話し終わって先生に例を言って家を後にした。
全身の震えが止まらなかった。
Oと長い付き合いだが絶対に俺に見せない1面があったのだ。
いや、俺にしか見せない1面があって、その他を見せる事は無いと言った方が正しいか。
数日後、落ち着いた俺はいつものようにOの家に行き、Oの部屋に上がった。
どうしたんだ、と言うOに俺は単刀直入に言った。
「ちょっと懐かしい話だけど」
「なんで分かった?」
俺は絶句した。
目の前にいるOがOじゃない気がした。
いや、こっちの姿こそが本来のOじゃないか、と考えた。
「なんで分かった?誰から聞いた?」
何も言えなかった。ただただ恐ろしくなって俺は急いでOの部屋から飛び出した。
後を振り返ることもなく、俺は家に帰って携帯からOの番号を消した。
吐き気が酷くなって、何も考えたくなくなった。
Oから連絡は着ていない。