神戸の震災があった年の話。
場所はボロアパート1階、自宅の浴室。
父が深夜2時まで続いた仕事を終えて帰宅し寝ている家族を気遣いながらのんびり風呂に浸かっていた時、しずかな風呂場にかすかに人の声が聞こえる。
子供のような女のような・・・
風呂に浸かりながら風呂桶から体を乗り出して耳を澄ます・・・
「死にたくない・・・ たすけて・・・ 死にたくない」
とはっきり聞こえる。
声の発信源は下から・・・・
毛髪が絡まる排水溝の穴から聞こえているのだ・・・・
なにが起こっているのか理解した父は「ヒっ!」という短い悲鳴をあげて風呂から飛び出た。
風呂を出た先は6畳ほどの台所兼玄関。
裸の父を迎えたのは天井から生える謎の足だった。
天井から太腿から下だけ見える骨と皮でできたような茶色い足が突き出ているのだ!
父は「うおおお!」と大きな声を上げた。
俺と母は驚いて飛び起きて裸の父に駆け寄った。
父いわく謎の足は悲鳴をあげた父のほうへ向きなおすと2階へ「スーっと」移動して行ったらしい。
その後、家族で神戸の震災でたくさんの方が亡くなったのでこんなことが起きたのではないか?
と震災で不幸に見舞われた方々のご冥福を祈り手を合わせた。
後日、ボロアパートに複数台のパトカーが集まり、事の真相を知る。
2階に住んでいた短大生が風呂場でリストカット自殺していたのだ。
父が聞いたのは2階住民の最後の断末魔が配水管を伝わってきたもの。
そして足だけ見えたのは自ら命を絶つ罪を犯した魂を連れ去るものの足だった。