「東海道五拾三次之内」には実に奇妙な謎が隠されていた。
発見されたのは、刊行後150年もたった1984年のことである。
人文地理学者の西岡秀雄・慶応大学名誉教授は、江戸時代の旅行や庶民の風俗を研究するために「東海道五拾三次之内」を調べていたところ、12番目の宿場絵図「三島 朝霧」にそれを発見した。
この作品は宿から駕龍で出立する旅人を描いたものだが、駕龍のかきの足をルーペでよく見ると、なんと草下駄から除く指が6本だったのである。
西岡氏はすぐに江戸の日本橋から京都の三条大橋まで、すべての版画を精査した。
その結果、ほかにも「日本橋」「戸塚」「藤枝」「御油」「赤坂」「水口」の7枚の絵の中に6本指を持つ人物を発見。
その数は男は10、女が3の合計13人であった。
こうなると単純ミスではありえない。
全55点のうち、人物が足元まで描かれた作品は11点しかなく、精査の対象となったのは合計27人。
つまりほぼ5割の確率で6本指の人物が描かれていたのである。
当時の彫師たちは原画に忠実に彫ることを旨としており、それが職人としてのアイデンティティーとなっていた。
とりわけ細かい手足を彫るには細心の注意が要求されたたため、間違いがおこるのはまずあり得ない。
第一、これだけ何回も間違っていたら、版元の保永堂が気付いたはずである。
ちなみにこれは歴史のミステリーという月刊雑誌に載っていた話の1つとして引っ張ってきました。
割と興味深い話や逸話が満載なので、ネタは多いですね。