十年くらい前、俺の親父がインドネシアに出張した時の話。
親父は語学堪能な方だから、現地のガイド、中国支社の人、日本の同僚の三者通訳みたいな感じで行ってた。
郊外の工場行った帰り、夜になってきた頃にスコールにあって、街灯もガードレールもなく舗装もされてない山路を車で走ってたらしい。
二台に分乗してて、親父は後続の方に乗ってた。
すると前の車がスリップ、親父の乗ってた車もそれ避けようとして横転。
前の車は山肌を回転しながらズルズル落ちて、みんな骨折してたり手足ザックリ切ってたり、死人はいないけどかなり酷い状態だったそう。
後続の方もガラスはめちゃくちゃで、負傷っぷりはおんなじ感じの中、親父だけが奇跡的に右手の側面を削っただけで済んで、血もそんなに出てなかった。
ガイドが言うには歩いて二十分くらいのところに集落があるらしく、親父は仕方なく一人で集落へ向かった。
一本道だから迷いはしなかったと言ってた。
んで、とりあえず集落の人に事情を話して金を握らせて車出して貰い、怪我人を運んで来てもらう事に成功。
親父はその間、集落にもしかしたら医者がいるかもと探してたが、シャーマンみたいなのしかいなかった。
シャーマンて結構気難しい人が多くて、この集落にいる奴も最初は外国人は帰れって感じだったらしい。
でもシャーマン、なんとなく親父の何かが気になったらしく、親父の持ち物を全部見せれば他の怪我人をそれなりに治療してやるし、朝一で街の病院へ連れてってやる、って言い出したんだと。
これは身ぐるみはがされるかなと親父は思ってたらしいんだが、(インドネシアに限らず、日本製の物とか日本人が不用意に持ち歩く多額の現金目当ての奴らなんかはいっぱいいる)他人の大事には変えられないんで了承。
別室に連れて行かれ、ポケットの中身を全部出させられた。
あ、この時点で親父は雨と泥でめちゃくちゃになったスーツは既に脱いで手に持ってる状態、
本人は下着だけだったらしく、オマケで掘られるかもとかビクビクしてたらしい。
結局そんなことはなかったんだが、シャーマンの目にとまったのが定期入れ。
日本で通勤してる時に使ってる定期しか入ってないんで、おかしいなと思ったそうだが、中身を見せろと言われたので見せた。
そしたら、シャーマンは定期の後ろに入ってた俺の写真を持って、これのお陰だと言い始めたんだと。
そもそも、親父の怪我だけが不自然に軽いので、シャーマンは何か強力なお守りを持ってると思ってたらしい。
シャーマン曰く、国ごとってか地域ごとに神様とか悪魔は違ってて、日本(ていうか親父の住んでる付近)では、俺の写真はただの俺の写真にすぎないが、たまたま事故った場所にいる悪魔が俺に近い波長を持つやつだったと。
それで、その悪魔は俺の写真から感じる波長を仲間だと思い込み、親父の怪我は結果軽く済んだって事らしかった。
俺は小さい頃、親父の仕事の関係でインドネシアに長いこと住んだことがあるから、そういう波長になったのかもって言われたらしい。
まあその後、親父の同僚さんたちや現地ガイドさんも病院に送ってもらって順調に回復したらしいし、
親父も実家でピンピンしてるが、異国の悪魔に間違えられた俺は、未だにこれを素直に喜べずにいるわ。