友人の話を…
バイトで知り合ったシンジとは同じ大学だったが、バイト以外では顔を合わすことは無かった。
バイト経験0だった俺に、『仕事をしているフリ』や『上手なサボり方』を教えてくれた。
ようは、チャランポランな人間だ。
バイト先は酒屋で、仕事内容は店番兼、配達。
その日は珍しく、客どころか電話一本鳴らない日だった。
「俺さー今月で大学やめちゃうんだよねー」
会話も無くなりかけたとき、シンジがいきなりそんな話をしだした。
シンジも俺もまだ1年。
うちの大学は私大で、入学費だってバカにならないのに、理由が
「だってここ田舎じゃん」
の一言。
変なヤツだと思っていたが、本当に変なヤツだった。
更に話題も尽き無言の時間が長引くと、何やら気まずくなった俺は、
「シンジってさ、何で配達とかのバイトしかしないの?」
どうでも良い事を聞いた。
シンジは今までいろんなバイトの経験談を語ってくれた。
引越屋、ピザ屋、クリーニング屋など。
たいして時給が良くないここへ来た理由を聞いたときも、
「配達に行けるから」
だった。
俺の質問にニヤ~っと笑うと、
「ど~しよっかな~いっちゃおっかな~。
俺どうせ、来週でここも辞めちゃうし」
どうでもいい事を何故かじらされ、更にどうでもよくなってしまったが、かまわずシンジは話し出した。
「俺さぁ、もうすぐ死ぬ人間が分かるんだよ」
シンジのキャラがキャラなだけに信じられなかったが、暇だったのでそのまま聞いてみた。
死ぬ10日前くらいから、人の色が黒くなる。
黒くなるといっても肌が日焼けするのとは違って、人間全体を彩度を落としたかのように暗くなる。
死期が近くなればなるほど黒くなって行くそうだ。
「配達をしていると色々な人に出会う。
すると黒い人間に会う確率が上がるから」
と言うのがバイトの理由だった。
俺は信じてはいないが、
「それで、見つけたらどうすんの?
助けてあげるの?」
と聞くとバカにされた。
「もうすぐ死ぬから気を付けて」
と言ったところで確かに、変人扱いされるだけだ。
「俺はね、見届けたいの。
そいつがどんな死に方するか。
病気や老衰は予測が付くけど、
若い元気なやつとかが黒いと、ちょー気になんじゃん。
あっでも、運命が変わるのかわかんないけど、
たまに黒かったやつが、急に黒くなくなったりはするよ。
実験とかしてねーから、俺もいまいちわかんねーけど」
シンジの話にポカンとしている間に、バイトの時間は過ぎ1日が終わった。
シフトが合わず、シンジにはそれっきり会わなかったが、電話がかかって来た。
他愛のない世間話の後に、
「お前、この間俺が言った事、どうせ信じてねーだろ?
証明ってわけじゃ無いけど、『スナック陣』のマスターと、伊藤の奥さん要チェックよ~。
死んじゃったら、おせーてネ。
それじゃ、俺4日後には東京帰るから」
俺に死因を教えろと言う内容だった。
どちらもシンジが担当していたエリアの人達だ。
俺はまさかと思いながらも気になったので、シンジの配達エリアも担当することにした。
5日ほど経ったある日、スナックのマスターが脳梗塞で倒れ、次に俺が配達に行ったときには亡くなってしまった。
俺は急に恐くなってシンジに電話したが、繋がらなかった。
その足で伊藤さん家に向かった。
配達は無かったが、シンジの話だと、もう奥さんが死んでもおかしくない頃だったからだ。
いつものようにチャイムを鳴らし奥さんを確認したら、配達を間違えたと言って立ち去ろうと考えていた。
すると出てきたのは、普段家にいない旦那さん…
奥さんは留守だった。
次の配達のときも留守だった。
気になっていた俺は、酒屋の店長に何気なく聞いてみた。
「ご近所の噂では夫婦喧嘩が有名だったから、奥さんは実家に帰ったんじゃないか?」
と言う噂しか分からなかった。
まるでタイミングを見計らったように、シンジからその夜電話があった。
俺はここ数日の事を話すと、
「そっかーマスター脳梗塞かぁ。
俺の予想では自殺だったんだけどなー。
伊藤の奥さん、庭にでも埋まってんじゃねーの」
俺も一瞬考えた事を、さらりと言われてしまった。
「今度こっち遊びに来いよ。楽しーぞー。
黒いのがいっぱいいるんだぜ」
伊藤さんの事があたまでぐるぐると回り、シンジの話がまるで頭に入らなかった。
その後、何を話したかも覚えていない。
伊藤さん家の謎を『火サス』の様に探り出す勇気もない俺は、さっさと酒屋を辞めてしまった。
この後は、もうシンジと会うことも無いと思っていた。
しかし、大学2年になって仲良くなった霊感の強い中国人のせいで、何度か危ない目に遭い、取り憑かれたのでは?
と思うたびに、小心者の俺は、シンジの元へ死相を見てもらいに行った事がある。
今度また暇なときに、その中国人の友人の話を書きにきます。