トンネルの中の女の子

トンネルの中の女の子 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

近所にある嫌いな場所の話。

そこはJRの線路下をくぐるように作られたトンネルで、右脇に細い歩道がついている。

通る時は坂を下ってからまた上るかたちになるので、見通しが悪く昼でも薄暗い。
距離が短いからか街灯の類はなく、交通量は多いという危険な場所だ。

ある日の夕方、近くを通りかかったときに、トンネルの中で泣いている小さな女の子をみつけた。

近くに親らしき人物もおらず、危険だと思った俺は声をかけることにした。

「なんで泣いてんの?」

女の子は俺を見ると、泣きじゃくりながら車道を指差した。

そこには車に轢かれたネコの死骸が転がっていた。

「……君の?」

とっさに出たのはそんな言葉だった。

女の子が大きく肯く。

涙でびちゃびちゃの大きな目が、無残な亡骸をじっと見つめていた。
女の子もネコも可哀想だが、とにかくこの子をトンネルから連れ出そうと思った。
この子まで車に轢かれるようなことになってはいけないし、死骸を見続けるのは辛いだろう。
それに、次に来る車がネコの死骸を轢かないとは限らないのだ。

そんな光景はとても見せられない。

そうして俺は女の子をなだめ、抱きかかえてトンネルを出た。

外に出たとたん悲鳴があがった。

通行人の女性が俺を見て声を張り上げている。

まさかこの子のお母さんか。

これは誘拐じゃないぞと憤慨しかけたが、そういうことじゃなかった。

女の子を抱えたはずの俺の腕の中にいるのは、哀れなネコの死骸だった。

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