これは、私が小学生の頃の話です。
学校からの帰り道、真っ黒な髪を腰までのばした女の子が、公衆電話の前に立っていました。
その子が振り向いて話かけて来た時に、その目が白く濁っていた事から、私は彼女が盲目である事を知ったのです。
その子は透き通った声で言いました
「美加ちゃん、お葬式の最中に悪いんだけど、私の代わりに電話をかけてくれる?」
わたしは(何か誤解されてるな)と思い乍らも、そこは突っ込まずに、それよりも彼女が何故迷う事なく私の名前を言い当てたのか、知りたいと思いました。
「どこかで、会ったかしら?」
すると彼女はクスクスと可笑しそうに笑い、本を読むように饒舌に語り始めたのです。
「クラスが違うから、知らなくても無理はないけど、アナタの同級生よ。
貴方は一組で私は六組。
廊下の端と端ですものね。
でも私は、ずっと前からアナタを知っていた・・・。
目の悪い人間ほど、声には敏感なものよ。
アナタはとても綺麗な声で、クラス
の人望も厚くて、よく皆の話題になってた・・・。
だってアナタは優等生の見本のような人ですものね。
きっと私の頼みを聞いてくれると思ったの。
エゴイスティックな他の人たちとは大違い・・・・・・」
なにかが狂ってるような気がしました。
それでも私は、その少女のいう通りに、ダイヤルを回し(当時はまだダイヤル式の公衆電話でした)、少女のいう通りに、受話器を渡したのです。
女の子は、電話の向こうの誰かと声を潜めて話しては、時々こちらを見て、にっこりと笑いました。
その電話が終り、少女が去った直後でした。
私が、途方も無くおそろしいものに取り憑かれていた事に気付いたのは。
理由を詳しく説明する事はできません。
私のつまらない文章の意味を理解した者だけが、とりつかれる。
それが、この少女の呪いのルールなのですから。