田舎から上京して東京H市の大学に通っていたオレは当然、アパートで一人暮らし。
まあ、あんまり金もなかったので風呂付、トイレ付きで25500円の安アパートに入居した。
木造の築、20、30年たっていたように思う。
「H荘」て名前だった。
当時、苦学生で塾の講師のアルバイトなんかをしていたがバイト先が三鷹だったんで帰るのは11:00すぎ。
いつも疲れてた。
アパートに帰ると一刻も早く寝たかった。
眠いいい・・・・。
ところが、入居して3ヶ月過ぎた頃からヤツはやってくるようになった。
ヤツは眠っている俺の部屋に音もなく入ってくる。
俺が気づくのは隣で誰かの寝息が聞こえるからだ。
「すーっ・・・・・、すーっ・・・・。」
あきらかに自分とはちがうヒトの寝息が背中側から聞こえてくる。
「すーっ・・・・・すーっ・・・・。」
ところがヒトは疲労が極度に達していると、なるだけわずらわしい事には関わりたくないと思うもので。
いつも これは自分の寝息が反射して聞こえてるだけだ。
幻聴、幻聴。と思うようにしていた。
ところが・・・・。
そんなある日のこと。
いつものように部屋にきたヤツは今日にかぎってしつこかった。
「すうう・・・・はあ・・・・・。」
またかよ。
しかし怖い・・・・。
こういうときは自分の呼吸音をなんとか相手にあわせて錯覚をよそいおいたいのだが、もちろんヤツはあわせてなんかくれない。
「すうう・・・・はあ・・・」
う・・・いやだなあ・・。
しかしこの日はホントに疲れていてはやく寝たかった。
めんどうくせえ。
ふとんかぶって寝ちまえ!!
オレは布団を頭からかぶり耳をふさいで寝ることとにした。
「・・・・・。」
しばしの静寂・・・・。
あ、帰ったかな。
ホッとしたその瞬間!!!
「すうううう・・・はあああああ・・・・すううううう・・・はああああ!!」
うああああああ!!!!
やつは布団の中にいた。
耳元に荒い息がかかった。
そのときオレは恐怖のあまり頭の変なスイッチが入った。
逆切れだ。
「ふざけんなあ ボケえ!!、てめえ死んだ人間の分際で生きているやつに迷惑かけるなんて100年はええんだよ!こらあ!」
すると、なんとあきらかにヤツはびびっている。
おおっ!オレは幽霊を追い込んだぞ!
「なんだあ、おまえ!だいたいなあ、俺みたいな忙しい苦労人のところにでるんじゃねえよ ぼけがああ!!! もういっかい殺すぞコラ!」
びびるヤツに悪態をつきまくる俺。
よし、もう一歩だあ!
そのとき弱々しい声が聞こえた。
「ドコニイケバイイ?」
となりだあ!となりの馬鹿学生のところでも行きやがれえ!!
次の日からヤツはこなくなった。
それでゆっくり眠れたかというと、そうでもなかった。
ヤツはこなくなったけど変わりに次の日から薄い壁越しに隣の学生の叫び声や鳴き声が聞こえるようになったからだ。
どうやらヤツは元気でやっているらしい・・・・。