以前さる工場の二階に勤務していた。
ある日、火災を告げる非常ベル。
けたたましく鳴り響く。
逃げなきゃ、と西階段へ向かったら、ガラガラ降りてくる鉄製シャッター。
あわてて東階段へ向かったらそこも既に鉄製シャッター。
二階の社員は全員閉じ込められた。
工場内アナウンス。
「一階、ハンダ槽より出火中。消火剤の成分が、二階の製品を汚染する恐れがあります。
一階を消火した後、中和剤を撒きます。
それまで二階の社員はその場で待機してください」
「繰り返します。次の指示があるまでその場で待機して下さい」
次の指示があったのは40分後だった。
その間、焦げ臭い臭い、悲鳴や怒号が下から漏れ聞こえてくる。
逃げたい逃げたい、なのに、上司からは窓も開けるな、製品が消火剤で痛む!
製品の品質の為だ、こらえろ!
でも。鳴り続ける非常ベル、心臓がばくばく。
やっと鉄製シャッターが上がって、外へ避難しても良いと許可が出たのは更にその一時間後だった。
その後、自分は工場を辞めた。
お給料は少ないけど平穏な職についた。
自分のいたころは社員の入れ替わりの激しい工場だった。
あの時のことは今でも夢に見る。
世間ではよくあることなのかもしれないし、このぐらいでビビる自分がチキンなのかもしれない。
自分的に怖かったので。
普通の人はこんな日常に耐えて毎日仕事しているんだろうな。