丑三つ時の音

丑三つ時の音 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

これはパチ屋で働いていた時の話。
俺には一切霊感はなく霊は信じるけど見た事ないからなんとも…といった所。
そこのパチ屋は俺が入った時からトイレに居ると天井から足音がするとか2階に居る賄いさんが何かが歩き回るような音を聞いたとかそんな話が後を絶たなかった。
実際俺がトイレに入っている時もそんな音はしないし、何も感じはしない。
たまたま何かの音を聞き間違えたんだろうと思って働いていた。

それから約1年経った時の事。
遅番が終わってトイレに行ってから帰ろうと思いトイレに入ると何やら音がする。
なんだと思って聞くとコツ…コツ…コツ…と音は一定間隔に聞こえてくる。
俺はあの話を思い出しまさかなとは思いつつも良く耳を済まして聞いてみる事にした。
そうすると水が滴るような音にも聞こえてくる。
どこかで配水管にヒビでも入ってそこから水が垂れていたんだと思うことにした。
今思えばここから全てはおかしくなったんだと思う。

その帰り道。
俺はパチ屋の向かいにあるコンビニの前を通って何時も帰る事にしているので何時も通りそのコンビニの前を通ってパチ屋が左手に見える方向に歩き出した。
丁度コンビニを過ぎる…車線の反対側ではパチ屋の駐車場を過ぎる時に不思議な音を聞いた。
こう…なんというか舌打ちの音のようでいざやってみるととても真似出来そうにはないのだが、明らかに人間が出している音なのである。
それが断続的に…1秒おき位で聞こえてくる。
辺りを見回してもこんな夜中の2時過ぎに人など居るわけもなく夜中は車も通らない場所の上、今は4月。
虫の音すらしない。
そんな中でその音だけがずっと鳴っている。
気味が悪い。

極力気にしないように夜道を歩いて行くのだがずっと同じ音量で反対車線の向こうから断続的に聞こえてくる(つまりはずっと付いて来ているという事)音はなんとも不気味だ。
一度立ち止まって音の主を探してみる…が何処にもそんな姿はない。
そしてなんとも奇妙な事にその音は俺が立っている遥か上…電線の位置から聞こえてくるのだ。
勿論立ち止まっている間も音はずっと「そこ」から聞こえ続けている。
今度はその場所を見ながら歩くことにした。
音は相変わらず滑る様に電線の上から聞こえてきている。
俺は原因、理由を頭をフル回転させて考えてみたが「気のせい」という以外納得の出来る回答は存在しなかった。
そこで俺はこの音を無視することにした。そう、この音は俺の幻聴なのだ。
最近頑張り過ぎているせいだと――そう思うことにして。

気がつくと音は消えていた。
やはり幻聴じゃないか。
だが音が消えていると解るのはさっきの音が存在し聞こえたのを認める必要がありそうなるとさっきの音は幻聴では無くなってしまうという矛盾がある。
色々考えてやめる事にした。考えてもきりがない。
その日はとりあえず家に帰るとすぐに寝ることにした。

その次の日。
パチ屋のシフトというものは大抵「遅」「遅」「早」「早」「休」というサイクルでその日は2日目の遅番の日だった。
営業中は忙しくすっかり昨日の事など忘れてしまっていたのだがいざ、仕事が終わって帰るという頃になると途端に思い出してしまう。
今日はどうなのだろうか―?また、あの音が「現れる」のだろうか―?
俺は前の日と同じようにまた歩き出した。

やはり、また聞こえる。
幻聴ではない、これは事実なのだ。
しかも今日は昨日とは「音」が変化していた。

音が動くのだ。

電線を伝うようにして前後に行ったり来たりしている。
丁度飛びながら鳴く鳥をイメージすると良いかもしれない。
何もない場所から音が聞こえ――尚且つそれが電線の高さでしかも移動するのだ。
気味が悪いったらしょうがない。
そして今度は車線を飛び越えてこちら側に飛んで来て頭上の電線を行ったり来たりしている。
もう鳥肌が立った。
今頭上には姿の見えない何かが「居る」のだ。
その日は走って帰る事にして家に帰るとすぐに酒を飲んで寝てしまった。

その次の日、更にその翌日と翌々日は早番と休みだったりして考えずに済んだ。
それからは遅番のある日は大抵誰かに車で送って貰ったりしながらなるべく遅番の帰り道は一人で歩かないようにする事にした。
しかしたまに一人で帰らなくてはならない時にはその度に嫌な思いをする事になったが…。
正直こんな思いをしながら働き続けるのはとても嫌だったので、その――たまに一人で帰らなくてはならない時に色々と検証してみる事にした。
まず、出没する時間が午前2時から4時までの間。つまり丑三つ時である。
これは早く帰れたときや入れ替え作業などで遅くなった時で確認した。
更に出没する空間がコンビニを過ぎてから次の信号がある300M先迄までなのである。
毎回毎回の出没距離が大体その間に収まった為だった。
特に危害を加えてくるわけでもないが不気味な「そいつ」は、仕事を切り上げ早く帰ったり送ってもらうことで接触を回避することが出来たのだった。

その回避する事が出来なかった日の事。
たまたま仕事が長引いて例の(霊の)「時間」に帰る羽目になってしまったのだ。
俺は聞こえても極力無視をすることにして歩き出した。
だが、その日は何時もと違っていた。
何時もは周りを飛び交っているあいつがぴったりと真上から動かないのだ。
更に歩道にある街灯が俺が近づく度に切れかけの電球の用にちらつき、そして丁度真下に来るとパチンと消えてしまう。
俺が街灯から離れればまたちらつく状態に戻り、完全に離れると何時ものように眩しく何事もなかったように灯っている。

おかしい――今日は何時もとは違う…。

俺はこいつが居なくなる空間まで足早に歩いた。
そして、音は消えた。
俺は助かった――。
高鳴っていた心臓が収まっていく。
恐怖は消え去った。
そう思うと段々と嬉しくなってつい鼻歌でも歌ってしまう。
そうして家に着くまでに通らなければならない上り坂までやってきた。
その角度がきつい坂にはびっしりと路上駐車の車が列になって並んでいて、行きは楽で良いのだが帰りはその傾斜角によって疲労を増してしまう。
俺は鼻歌混じりにその車の側を通り過ぎた、その時。

ギィ…。

ん…?今のはなんだ…?
辺りを見回しても何もない。
気のせいかと思って歩き出すと

ギィ…ギィ…ギィ…。

俺のすぐ隣から聞こえて来るその音は俺の歩幅に合わせるように聞こえて来る。
隣には車しかない。
つまり、何者かが車の上を俺の歩幅に合わせて歩いているということになる。
俺は叫んで走り出しそうになった。
だがその気持ちをぐっと堪えて我慢すると、今度はあの「音」が…。

仕事は次の遅番が来る前に辞めました。
皆さんもくれぐれも丑三つ時に外出する際はご用心を。
そういえば今の時間って、丑三つ時でしたねぇ…。

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