ケイビング

ケイビング 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

叔父の話。
母の弟である叔父はケイビングが趣味で、社会人になってからも大学時代の仲間とよく山に行ってたらしい。
未踏の鍾乳洞を発見したことも、何回かあったそうだ。
その日も叔父は井脇という仲間と二人で、すでに何度か足を運んだ洞窟に朝から篭っていた。
昼過ぎに帰り支度をして洞窟を出ると、井脇が少し山を歩こうと言う。
散策をしていたら、山中で洞口らしきものを発見した。
さっきの洞窟と中で繋がっているかも知れない、と井脇は言ったが、叔父は再び洞窟に入るのを嫌がった。

未発見の洞窟に入るには準備が万全じゃないし、二人では心もとないと主張したが、井脇が

「じゃあ俺一人でも入る」

と言うので、渋々付いて行ったという。
立って進めはしたが洞窟は狭く、叔父の勘では、いずれ行き止まりになるような感じだった。

ところが、前を行く井脇が

「何かいた!」

と言って、足を早め出した。
先に進むと、少し広い空間があって、その下に縦穴が続いていた。
躊躇する叔父に対して、異様な興奮を見せる井脇がずんずん降りていく。
叔父もようやく縦穴を攻略して、再び横穴に出た。
すぐのところにまた縦穴があり、井脇がそこでどう降りるか思案中だったという、その時!

・・・その井脇の上に何の前触れもなく、低めの天井から岩が崩れ落ちてきて、ライトの明かりと共に全てを押し潰した。
叔父はとっさに身を引いて、さらに崩落しようとしていたその横穴から元来た縦穴へと移り、ひたすら逃げたという。

77: 名無しさん@おーぷん 2018/04/05(木)10:36:07 ID:dqM
叔父をさらに恐怖の底へ叩き込んだのは、ヘッドライトが落石を受けて割れてしまったことだった。
予備のハンドライトも、井脇が腰に付けていたものだけだった。

だから言ったのに・・・

だから言ったのに・・・

と頭の中で繰り返しながら、光の差さない暗闇の中を手探りで進んだそうだ。
早く光の下に出たくて心は急くのに、進む速度は来た時の倍以上も遅い。
さらに、

「この縦穴、来た時はこんな形状だったか?」

という不気味な想像が沸いて、心臓がバクバクいっていた。
やがて横穴に出て、

後は歩いて進める・・・

と少しほっとした時、後ろから微かな足音と共に、こんな声が聞こえて来たという。

「おい、おい・・・」

井脇の声だった。

「おい・・・待ってくれ、体中が痛いんだ。骨が折れたかも知れない」

井脇のその声を聞いて、叔父は足を早めた。
後ろを一瞬振り返ったが、当然暗くて何も見えなかった。
幻聴かと思ったそうだ。
さもなければ、もっと嫌なものだと思ったという。
手探りで進む叔父の後ろを、ズルズルという、微か足を引きずるような音と、凍えるような息遣いが追いかけて来た。

「しっかりしろ!早く外に出て助けを呼ぶんだ!」

と自分に言い聞かせながら、叔父は追いかけて来る井脇の声を無視し続けた。

「待ってくれ・・・足が・・・足が・・・」

すぐ後ろのような・・・遠いような・・・

距離感の掴めない音で声は付いて来た。
普通はこういう状況だと、幻聴だと思い込むより、まず助けに行くことがケイビングをする者の、というか人の鉄則だろう。
僕も初めてこの話を聞いた時は、憤った。

79: 名無しさん@おーぷん 2018/04/05(木)10:43:55 ID:dqM
しかし、叔父は見たというのである。
あの岩が崩れ落ちてきた瞬間、消える直前のライトに一瞬だけ照らされた井脇の姿を。
それは確かに、

腹部が生存不可能なほど潰される瞬間・・・

を見たというのである。
だからこの後ろから付いて来る声は、幻聴なのだと。叔父はその声に、

「付いて来るな!」

と何度も言おうとして止めたらしい。
言うと、その声を認めてしまう気がして。
叔父は暗闇の中を、ひたすら手探りで出口を目指した。
ズルズルという音と息遣い、それと、叔父の名前を呼ぶ声は、それでも離れず付いて来た。
完全な暗闇の閉鎖空間では、自分の頭の中の創造と現実の出来事とが比較しにくく、しばしば幻覚のような症状が現れるという。

あれは幻聴だ・・・

あれは幻聴だ・・・

という自分の言葉も、本当に声として出ているような、何とも言えない感覚があった。
だから、後ろから付いて来ているモノにも、

それを聞かれているような・・・

息が詰まる戦いの末、叔父はようやく洞口に
辿り着いた。
光の中に出て、叔父は洞窟の中を振り返ったという。
一瞬、闇の中に、誰か人の顔のようなものが見えた気がしたが、それは間違いなく自分の脳が生んだ幻だろう、と叔父は言っていた。
それから数時間後、井脇は崩落のあった場所で死んでいるのを発見された。

即死という見立てだった。

それからケイビングを一度もしていないし、これからも

「もうやらないだろう」

と叔父は言う。

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