赤いサンゴ玉

赤いサンゴ玉 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

うちの父親は三年前に肺がんで亡くなったんだが、生前は骨董集めを趣味としていた。
といってもうちにそんなに金があるはずもなく、骨董市などで買った安い小物ばかりで値の張る皿物や掛け軸なんかはなかった。

父がもういけないというとき、病院のベッドで長男だった俺に

「骨董は仏間の押し入れにまとめてあるから○○(なじみの骨董屋)に下げ渡してやってくれ、まあいくらにもならんだろうが・・・。
それから、風呂敷に一つ小物の骨董をまとめてあるから、これは俺の初七日あたりにでも坊さんに渡して、お炊きあげしてもらってくれ。」

と奇妙なことを言った。
俺が

「どうしてだい、それはお金にならないものかもしれないけど、ただ捨てるだけでいいんじゃないか。」

と問うと、父は

「いや風呂敷の中のものは、よくない骨董なんだ。
長年かかってさわりを押さえる方法を覚えたんだけども、お前らには無理だろうから。
必ずそうしてくれよ。」

と、病みついても冗談ばかりだったのに、いつになく真剣な顔でそう言った。
父の葬式が済んでやっと落ち着いた頃に、骨董屋を呼んで処分を任せたが、たしかにいくらにもならなかった。
押し入れには父の言っていたとおり風呂敷包みがあり、中には煙草の根付けやらべっこうの櫛やら時代がかった小物がいくつか入っていた。

念のためにと思って骨董屋にそれも見せると、骨董屋は少し首をかしげ

「はああ、故人もかなりこの趣味がこうじとったようですわな。
よくわかってらっしゃった。
これはうちでも扱えまへんから、言われたようにお寺さんに任せるが よろしいでしょ。」

と言った。

俺は初七日のおりに、坊さんに事情を話してお寺に持って行ってもらったが、一つ赤いサンゴ玉らしい煙草の根付けを風呂敷から抜いてポケットに入れてしまった。
そのときにどうしてそんな気持ちになったのかは今でもわからない。
後で宝石店にでも持って行こうと思ったのか。
・・・そのサンゴ玉は仏間の金庫に入れておいた。

次の日からがたいへんだった。
長く忌引きをもっらっていた会社に出勤したものの机の上は仕事の山。
そして午後、会社に小学校から電話が入り、6年生の長男が校庭のブランコから落ちて下あごを骨折したという連絡があった。
すぐさま病院に駆けつけたが、医者に命に別状はないものの大きな手術が必要だと言われた。

やっとのことで家に戻ったその夜、寝室にいると下の3年生の娘が血相を変えて飛び込んできた。
仏間に女の人がいる、と言う。
トイレに行こうとして二階から降りてきたときに物音がしたので、仏間を覗くと着物姿の昔の女の人がぼうっと白く光りながら立っていた、と言うのだ。
いっしょに仏間を見にいこうとしたが、娘は怖がって妻にしがみついて離れない。
そこで一人で見に行くことにした。
と言っても二間ほど離れた家の中なのだが。

仏間に入るとすぐに、ものすごく生臭いにおいを感じた。
蛍光灯をつけるとむろん誰もいなかったが、畳の上に、なぜか金庫に入れたはずの赤いサンゴ玉が落ちていた。
それはまるで血のしずくのようにも見えた。

拾い上げて金庫にしまおうとしたが、てのひらの中でその玉がうきゅきゅっと動いたように感じた。
その朝方、娘が40度の熱を出して叫びだし、痙攣を起こして救急車を呼ぶ騒ぎになった。

父の死に続いて子供二人が入院するはめになり、妻もかなりまいってしまったようだった。
長男と同じ病院に娘をうつしてもらい、内科と整形外科での治療となったが、介護のために妻はパートをやめざるをえなかった。

その後は悪いことばかりが続いた。
欠勤が続いて俺は会社に迷惑をかけ、たまに出勤した日には大きなミスをした。
・・・そして娘は父の四十九日の日に死んだ。
原因不明の熱病だった。

娘が死んだ夜、一人で自宅に戻り玄関の鍵を開けると、真っ暗な中に和服の女が上がり口に立っていた。
昔の遊女のような姿だった。

女は顔をあげてこちらを見つめ

「あなたのお父様にはおさえられておりましたが、これでどうやらのぞみを果たせました。」

というようなことを言った。
耳で聞いたのではなく、頭の中に響いてきた。
そして手から何かを落として消えた。

俺は呆然としていたが、明かりをつけて見るとそれは金庫の中にあるはずのサンゴ玉で、鮮やかな赤い色だったものが色が濃くなってほとんどどす黒いといえる色に変わっていた。

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