同級生の話。
学生時代、彼は頻繁に引っ越しを繰り返していた。
よほど居を移るのが好きなのだなと思っていたが、どうもそうではなかったらしい。
引っ越しの話題になった時、彼はおかしなことを宣った。
「大学生になって、一人暮らしを始めてからなんだけどね。
俺って、見えない女に取り憑かれたみたいなんだ」
初めは夜寝ていると、いきなり足首がギュッと強く掴まれたのだという。
驚いて目を覚ますと
「みーつけた」
と女の声がして、同時に掴む感触が消えた。
眠いのでそのまま寝てしまったが、朝起きて確認すると足首に青痣が出来ていた。
「それからなんだよね、部屋に何かが居着いた。
動いていると、目に見えないけど柔らかい何かにぶつかることがある。
寝ていると、足や髪を掴まれて起こされるなんてしょっちゅうだ。
風呂に入っていると、誰かが同じ浴室内で「うふふふ」と笑いかけてきやがる。
狭いユニットバスだから、俺以外は誰も入っていない筈なのによ。
しかし慣れって凄いもので、気にならなくなって熟睡出来るようになったんだ。
まぁ、相手の姿が見えなかったっていうのもあるんだろうけど」
「でもそのまま放っておいたら、何かどんどんとパワーアップしちゃってさ。
夜にドアというドアが勝手に開いたり、テレビや電灯が独りでに点いたり、水道が出っ放しになったりするもんだから、ほとほと困ってしまったんだ」
「お祓いも何度か受けてみたけど、アレはアレだね。効果は無いね。
いや本物に払ってもらえば効くのかもしれないけど、そんなの伝手無いし。
だからもう諦めて、サッサと逃げることにした。そう、引っ越し」
「新しい場所に引っ越すと、しばらくの間は大過なくいけるんだ。
残念ながら今のところ、保って半年なんだけどね。
大体それくらい経つと又『みーつけた』って、ギュッと掴んでくる。
まぁ俺自身も引っ越しは嫌いじゃないから、何とかなってるけどさ」
「人外には凄くモテるんだね」
感心した私がそう感想を述べると、なぜか彼は押し黙り、それからしばらく話相手になってはくれなかった。
ちなみに彼は大学を卒業後、遠くの県で就職したのだが、見えない女もそこまでは追ってきていないということだ。