峠のダルマ

峠のダルマ 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

その山道には、奇妙な噂があった。
月夜の晩に、峠へと続く坂道を上っていると、何かが転がって来るというのだ。
いったい何であるのか確かめようと、村の若者が夜中に峠へと繰り出した。

若者は酒を呷りながら、峠の道を歩いていた。
しばらく歩くと何かの物音に気づいた。
坂の上を見上げると、小さな物がコロコロと転がって来る。
月が出ているとは言え暗い夜、しかも遠くにある小さな物なのに、何故かそれがダルマだとハッキリ判ったのだそうだ。
まだ墨が入っておらず、白目だとも。

ダルマは坂の角度からして、有り得ない速度で転がり、すぐそこまで来た。
いや、よく見ると違う。
ダルマはまだ坂の中頃までしか転がっていない。
そう見えたのは、ダルマが、坂を転がりながら大きくなっているからのようだった。
まるで、雪の上を転がる雪玉のように。

若者は得体の知れぬ恐怖を感じ、引き返そうとしたが、体が動かない。
ダルマはさらに大きくなりつつ、ゴロゴロと坂の下へと迫る。
やがて、人の大きさまで膨らんだかと思うと、目の前でズザッと止まった。
そこには、愛らしい元の姿は無かった。

赤い布で包まれた肉の塊が、呻き声を上げながら、もそもそと蠢いている。
蠢くうちに布ははだけ、手足をもがれ白目を剥いた僧侶が、何やら経文を唱えだした。
若者は恐怖に耐え切れず、その場で気を失ってしまった。
朝になって目が覚めると、素っ裸で道に寝そべっていたそうだが、腕と脚の付け根に、人の物らしき歯形が残っていたという。

ムジナの仕業であろう、というのがこの村に古くから住む者の見解だったが、調べてみると、かつてこの村で旅の僧侶が殺され、人身御供とされている事が判った。
どのような形で犠牲になったかまでは判らなかったが、ダルマはその僧侶の無念の姿ではなかろうかと思うと、何とも居たたまれなくなった。

ダルマは今でもあの坂を、転んでは起き転んでは起きを、繰り返しているのだろうか。

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