足音

足音 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

中学生の時のこと。

新しく建てられた体育館の竣工式のために、私は全校生徒の前でピアノを弾くことになった。
竣工式が行われるまでは使ってはいけない規則になっている体育館。
ただ、私だけがピアノの練習のために使うことを許可されていた。
ピアノの練習は、当時所属していたテニス部の練習が終わってから。
大体7時から9時くらいまでの時間を、一人体育館で過ごしていた。

その日は朝から雨が激しく降っていた。
いつものように旧体育館でテニスの練習をした後、新体育館でピアノの練習をしていた。
雨の音でピアノの音がかき消される。
それぐらい外の雨は激しい。

そんな中。ものすごい轟音とともに空が光った。雷が近いらしい。
何度となく響く音と光。急にふっと暗くなった。
停電だった。

急のことで、慣れない目。
真っ暗では譜面も読めない。仕方なく復旧するのを待っていたその時。

ぺた ぺた

暗闇の中から、音が聞こえた。
濡れた足で床を歩く音。

ぺた ぺた

音は近づいてくる。

「先生?」

停電になったことを心配してくれた先生が来てくれたのだと思った私は、声をかけてみた。
広い体育館の中に反響する私の声。

ぺた ぺた

返事はない。
足音は近づいてきているように聞こえる。

ぺた ぺた

その時、私は気付いた。
あれほど激しく鳴っていた雨の音も雷の音も聞こえないことに。
ただ、ぺたぺたという音が近づいてきているのだけははっきりと聞こえた。

暗闇になれてきた目を凝らして見ても、ぼんやりと見える体育館には誰も人はいない。
なのに、足音はもう私のすぐ近くで聞こえていた。

ぺた ぺた

私は椅子から飛び降りて、ステージの一番奥の壁際まであとずさる。
もう音は私の目と鼻の先で聞こえていた。

ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた ぺた

その時、カンっと音が鳴り、体育館の水銀灯が薄く灯った。電気が復旧したらしい。
暫くした後、音楽の先生が切った懐中電灯を手にやってきてくれた。

どうしたの、大丈夫?

私は顔面蒼白だったらしい。
心配した先生はそう声をかけてくれた後で、ピアノの異変に気がついて私に聞いてきた。
曰く、ピアノの椅子と譜面は濡れた手形いっぱいだったと。

そうして、私も気が付いた。

私の制服のすそ。
少しだけ濡れていた。
あの時、電気が復旧するのが遅かったら…?

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