賃貸不動産板で、最低と書かれている不動産会社で働いていた友人三宅(仮名)から聞いた話です。
高卒で不動産屋に就職した三宅が、入社から半年を過ぎた11月頃に、三宅の友人村形(仮名)に、賃料が安く駅から近い物件を紹介してくれと頼まれ、築15年の古いアパートだが、和6 洋4.5 風呂トイレ別ユニットバスの木造アパートを紹介しました。
村形は物件の下見後即契約し、そのアパートへ引っ越しました。
翌年3月に村形の友人柳瀬(仮名:三宅の友人でもあります)が上京して来て、村形のアパートで新居が決まるまで同居する事になりました。
村形は洋間にパイプベッドを置いて寝て、柳瀬はその横に自分の布団をひいて寝ていたそうです。
数日たって、柳瀬が村形に「自分は和室で寝たい」と言い出しました。
村形が柳瀬に理由を尋ねると、柳瀬は申し訳なさそうにこう話しました。
「居候している身で、村形を脅かすようなことを言うのに気がひけて、今まで黙っていたけど、もうだめだ。
壁が薄くて、隣の部屋の人の村形Vの音や、声が聞こえるのはまだ我慢出来るが、押入から人が毎晩出て来るんだよ。
夢か幻覚かもしれないが、あの顔を毎晩見るのは耐えられない。
押入の無い和室で寝れば、あんな夢は見なくて済むんじゃないかと思って、和室で寝たいと言ったんだ」
村形は引っ越してから、そんなおかしな体験を一度もしていなかったし、まして、三宅には『お化けが出るとこ紹介したら殺すからな』と、何度も念を押していたので、笑って柳瀬の話しを聞き流したそうです。
それから毎日深夜3時頃に、柳瀬が村形を起こすようになったそうです。
「マジで今出たんだって」
柳瀬は毎回真顔で、村形にこう言ったそうです。
村形は半信半疑ながら、
「そこまで言うなら、オレがそっちで寝てやるから、お前はベッドで寝ろ」
と言って、翌日は村形と柳瀬で寝る場所を交換しました。
今日は柳瀬に起こされないだろうと思って熟睡していた村形は、その日も柳瀬に起されました。
「お前の上を素通りして、ベッドで寝ているオレんとこに来やがった」
村形は「てめえいい加減にしろ!」と言って、柳瀬と取っ組み合いの喧嘩をしました。
お互い疲れたところで、柳瀬が真剣な顔で、
「隣室で誰か死んでいるのかも知れない。
それで、その幽霊がこっちの部屋に出てきているのかもしれない。
三宅に一度確認してみた方がいい」
と言い出しました。
その日のうちに、会社に出勤していた三宅を呼び出して、三人で柳瀬の話しを詳しく聞いたところ、次の事が判りました。
3時頃に出てくるお化けは、押入から音も無く、すべるように柳瀬の寝ている場所まで来ていた事。
そのお化けには手も足も無く、黒く長い寝袋の様な形で、寝袋の様な胴体から出ている頭は、長い白髪頭で、顔は判らない事。
恨み言など何も言わず、ただ老婆のような泣き声だけ聞かされる事。
昼間でも押入か隣室から、老婆の押し殺すような泣き声や唸り声がたまに聞こえて来る事。
(村形は入居してから、そんなものは全く聞いた事が無い)
村形が居ない時に押入の天井と床板を外してみたが、何も無かったこと。
三宅は押入側の隣室の入居者へ、分別ごみの出し方で注意する事があったので、三人で飯を食いに行った後、隣室の中年男性を訪ねました。
用件を伝えた後、三宅はさりげなく中年男性に、隣室の騒音などについて聞いてみました。
その中年男性は、柳瀬が話したお化けを見たといったような話はしませんでしたが、村形の部屋側から、お婆さんの押し殺すような泣き声や唸り声がたまに聞こえて来る事、隣室の嫁さんを見かけないが、お婆さんを置いて引っ越したのか?
……などといった話しをしました。
そこで三宅が、隣室の住人は昨年引っ越しており、今は学生(村形)が住んでいると伝えたところ、その男性は驚いた様子で、
「今も嫁にいびられているお婆さんの声が、自分の部屋にたまに聞こえてくる。あの声は何だ?」
と、三宅に詰め寄ったそうです。
村形の部屋にもどった三宅は、隣室の人も柳瀬と同じ様に泣き声が聞こえると言っていた、と2人に話したところ、村形は三宅に、業者に頼んで押入近辺を調べてくれと頼みました。
そこで三宅が、「その前にオレがちょっと見てみる」と言って、押入の壁板をトントン叩いて調べ出しました。
三宅は調べているうちに、床板や他の壁板がコンコンという軽い音を返すのに、押入と風呂を挟んだ壁板だけボンボンといった、何か詰まっている様な音を返し、また、その壁板が少し膨らんでいるのに気付きました。
三宅がそこで板を外すと、黄色い袋のようなものが見えました。
三宅はこれはヤバイと思い、会社の先輩と大家さんを呼んで、壁板全部を外し、後から来た警察官が、その袋を引っ張り出しました。
取り出された袋は黄色い寝袋で、中に何か詰まっている様に、ズルッといった感じで出したそうです。
寝袋を押入から出した後、警察官が寝袋のチャックを開けようとしたところ、村形が突然「オレの部屋で開けるな!」と興奮して、警察官に怒鳴りました。
その場にいた全員が、これはもう事件がらみだと確信していたため、寝袋は部屋から持ち出され、警のワゴン車で開けた所、やはり仏さんが入ってました。
この事件が起きた十数年前は、今騒がれている子供の虐待死事件のように、ボケ老人問題で、介護疲れの親殺しや、無理心中事件が多発していました。
そんな中で起きたのが、この姑塩漬け殺人事件です。
事件の概要はこういったものでした。
村形が入居する前に、嫁と姑がその部屋に入居していた。
契約は10月まであったそうですが、嫁は8月に退去。
姑は嫁の実母でなく、旦那の母親。
旦那が女をつくって失踪。
嫁と姑がこの部屋へ引っ越してきた。
姑は旦那以外に身寄りが無く、旦那の失踪後は嫁が面倒をみていた。
嫁は自分を裏切った旦那への復讐を、姑に虐待と言う形で毎日繰り返した。
食事を満足に与えず、頭から熱湯をかけたり、アイロンを押しつけたり、かなり惨い事をしていた。
(ご遺体の腕などから、折れた針が何本も出てきたそうです)
姑は老後の面倒をみてもらっているという負い目から、痛い痛いと言うだけで逃げ出さなかった。
ある日、嫁が姑が布団から出てこないので、様子を見ると死んでいた。
嫁は怖くなって、姑をゴミ袋で何重にも包み、中に漬物用の塩を大量に入れ、更に寝袋に入れて、押入の板を外し、そこに押し込んで隠した。
嫁の退去後に、別の入居者が偶然死体を発見し、警察が捜索し嫁は逮捕。