親戚のおばさん
夕方茶の間でテレビを見ていると、玄関先から「ただいまー」と聞こえた。
高校生の娘の声だった。
いつもなら何も言わず鍵を開け、そのまま2階の自室に行くのに、今日は機嫌がいいのかな?なんて思った。
しかし、声は玄関先から動かず、
「ただいまー」「ただいまー」
と連呼している。
障子を開け、玄関先を覗くと変なものがいた。
頭の先からつま先まで、ペンキを塗りたくったような黒い人が立っていた。
つるつると黒光りしていた。
その黒い人が、玄関先でのぞき窓に片目を当てながら
「ただいまー」「ただいまー」
と繰り返している。
ぞっとしたおばさんは障子を閉め、すぐに110番した。
黒い人は玄関先で
「ただいまー」「ただいまー」
と言い続けていたが、10分ほどで聞こえなくなった。
おばさんは怖くてその間トイレに隠れていた。
声は間違いなく娘のものだが、なんというか、抑揚がなく、例えるなら笑い袋のようなもので録音してある声を、何度も再生しているかのような印象をうけたとか。
その後駆け付けた警官と、帰宅した娘に事情を説明するのが大変だった。
黒い人が家にやってきたのはその一度きりだった。