小学生だった時の話。
たしか二年生か三年生くらいの時だったと思います。
いつもは近所の子と一緒に登校するんですがその日はお休みで、私一人で家を出て、途中で違う地区の子達と合流して登校する予定でした。
凄く田舎なので極力一人登校しないようにっていう決まりだったんです。
だからいつもより早めに家を出て、歩いて十分くらいの合流地点まで向かう途中でした。
犬の軍団に会ったんです。
軍団って行っても5匹なんですが、小学生の中でも特に小柄な私から見るとすごい迫力だったのを覚えてます。
一瞬ビクッとなったんですが、良く見たらその中の一匹が秋田犬っぽい見た目だったんですよね。
その頃の私は漫画に目覚めたばかりでした。
それも、両親の漫画好きの影響で、本棚にあったろくでなしブルースとか修羅の門とか銀河鉄道999とか。
その中でも銀牙の完全版が本当に好きで、何回も何回も読み直すほどでした。
だからビクッとしたのも一瞬で、すぐに
「銀だ!じゃあっちのはベン!?
あっちはクロス!?紅桜は!?私の好きな紅桜は!?」
って、興奮MAXになっちゃったんです。
今思えば危険でした。
なに考えてたんだろう私。
そんで話しかけたんです。
秋田犬に向かって、
「銀?」
って。
そうしたら首を横に振ったんです。
その辺からもうおかしいんですけど、当時の私は違うのか…って少し残念になって。
でも五匹の犬はなんていうかこう…ボーリングのピンみたいに、秋田犬を筆頭にして三角形みたいに並んだままジッとしてるので、調子に乗って話しかけてました。
「熊と戦ったことある?」
とか、
「熊は死んだふりするから、倒したと思ってもすぐ近付いちゃ駄目なんだよ!」
とか。
漫画のほうでリキがやられたところがショックすぎたんでしょうね。
もの凄い勢いで言い聞かせてたのを覚えてます。
それでも五匹の犬はジッとしてて、秋田犬だけが首をふったり傾げたり頷いたりしてくれてました。
中でも一番印象に残ってるのは、
「絶・天狼抜刀牙って知ってる?」
って聞いたときです。
喋ったんですよね。
「なんだそれは」
って。
でもその時は特に不思議に思うことも無く、その秋田犬とずっと会話を続けてました。
「知らないの?必殺技でね、こう…回転を利用して」
みたいに一生懸命説明するんですが、
「回転?おまわりか。私はそんなことはしない」
とか言われて、そうじゃなくてジャンプしてから縦に回転するんだと説明すると、
「そんなことできるわけ無いだろう」
と一蹴されて、私は何故か熱くなってしまい、
「そうやって諦めてたらなにも出来ないよ!」
「紅桜も最後まで諦めなかったよ!」
とか、何故か私の大好きな紅桜を松岡修三並みに熱く語っていました。
それでも秋田犬は私の話を聞いてくれて、
「すごいな紅桜は」
「すごい技だな」
「でも熊とは戦わないから大丈夫」
「熊と戦ったりしたら死んでしまう」
みたいなことを言われ。
たぶんもの凄い時間喋ってたと思います。
そうしたらそのうちにハッと我に返って、
「やばい!はやく行かないと怒られる!」
って思って立ち上がりました。
(犬と目線を合わせるためにしゃがんで喋ってました)
そうしたら秋田犬が、
「あんまり走ると転ぶぞ。にわとりが出るからな」
って言って、正直なところ言っている意味が全く分からなかったんですがとりあえず返事をして、犬達に手を振って私は走りました。
あとはありきたりなんですが、走り出してすぐに一回振り向いた時にはもういなかったです。
どっかに走ってっちゃったんだと思って、やっぱり犬は早いなぁと思いつつ合流地点に向かいました。
本当なら約束の十五分前くらいにつく予定だったのに、十分以上遅れて行ったので凄く怒られました。
ちなみに合流してからみんなで鬼ごっこしながら学校に向かったのですが、私が逃げる番だったので全速力で走っていたら、なぜか側溝から鶏が飛び出してきてビックリしておもいきり転びました。
あー、このことだったんだなーと冷静だった自分のこととか、もの凄くよく覚えてます。
ちなみにこのときの体験を
「おかしくね?」
と思い始めたのは、小学校6年生くらいのときでした。
それまでどうして犬と喋った時の事を普通のことだと思っていたのかよく分かりません。
友達の家の犬とかに話しかけたりすることもなかったので、犬が喋れないのは分かっていたんですが、
なんだかあの秋田犬だけは喋ってる様子が当たり前のように思えていたというか…。
今でもよくわからない体験です。
でも銀牙は今でも大好きなので、出来ればもう一回会いたいです。
銀牙を知らない人にとっては意味不明な体験談ですみませんでした。