山田

山田 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

去年の大学の夏休みの話。
男4人で某廃ホテルに探索に行った。

俺らの住んでるとこからはけっこう離れてるんで、リーダー格のやつが借りたミニバンで行って、車中泊して帰ってくる予定だった。

全員懐中電灯を持ってたし、ガラスとか踏んでもいいように、クツもがっちりしたのをはいてきた。
スプレー缶持ってきたバカもいたが。
もちろんビデオとデジカメは準備して、1時間ばかり撮影して回った。

1階から4階まであって天井が崩れてるとこもあるし、個室を一室ずつ見て回ったんでわりと時間がかかった。
結果から言えば心霊現象は特になんもなし。
変な音とかはしたが反響か建物のきしみで片づくようなもん。

「ま、こんなもんだよな」

とか言いながら、その後は酒飲んで予定どおり車中泊して帰ってきた。

次の日

午後から仲間のひとりのアパートに行って、ビデオの検証をした。
手ブレがひどくて気持ちが悪くなるし、検証ではっきりしたものが写ってたためしはこれまでない。
俺は30分で完全に飽きてマンガとか見てたら、終わり頃に仲間があっと声をあげた。

「なんだ、なんだ」

と言うと、ある部屋の浴室を撮った場面で、一瞬、人がバスタブの中にいるように見えたっていう。
んで、巻き戻してみたら、影になってはいるけど確かに人に見えるものが写ってる。
水の入ってないバスタブに、向こうむきに膝を抱えた男が入ってて、それをビデオが後ろから撮ってるんだ。

「これどう見ても人だよな」
「髪短いから男じゃね」
「背中とヒザが見えるし、服着てないか短パンとかはいてるかだな」

とかいろいろ言い合ってたが、仲間の一人が

「これ山田に似てないか」

と言い始めた。

山田というのは俺らと同じ大学の学類が近いやつで、よく授業でいっしょになるし、何回かいっしょに酒を飲んだりもしてた。
そう言われてみると、ほんの2秒くらいだけど懐中電灯の光があたった後ろ髪が、特徴ある髪型の山田に似てる感じがした。

「これ完全な心霊ビデオだよな、つべにうpすっか?」
「絶対人が最初から入ってたやらせと思われるだけだろ」
「それより、こん中で山田としめし合わせて、ホテルにしのびこませてたやつがいるんじゃねえか」
「何で、んな面倒なことわざわざするんだよ」
「それにしても山田っぽいよな」

そんで携帯の番号を知ってたやつが山田に電話をかけたけどつながらない。
それでも何回かかけ直してるうちにやっとつながって、いちばん仲のいいやつが話してたが、どうやら山田は地元に帰省してるようで、そこは大学のあるこことも、ホテルの廃墟ともずっと離れたところだ。

山田は俺らの話を面白がってるみたいで、自分なはずはないが面白そうなんで、ビデオの画像をそこだけキャプチャするか動画を短く切って送ってくれっていう。
携帯だと画像が小さいから、実家のパソコンに送ってくれってメアドを教えられた。

いったん携帯を切って、画像処理したやつを山田のところに送ってやった。

それから30分くらいして、仲間に山田から折り返し連絡がきたが、10秒くらいで切れた。
仲間が変な顔をして

「山田、すげえ怒ってた。何でこれ見せたんだよ、って言うんだ」

それで

「お前が送れっていうから送ったんだろって言ったら、これ見たら俺死ぬじゃないか、そう言って切れた」

その後何回かかけ直したがつながらない。

「これで山田がホントに死んだりしたら怪談だよな」

「俺らをからかってるだけだろ」

とか言い合ってたが、2人バイトがあるやつがいて、その日は解散になった。

それから2日後に山田が実際に死んだということがわかった。
俺らが山田に画像を送った直後に蜂に刺されたらしい。
外ではなくて実家の自分の部屋にいて刺され、すぐ病院に運ばれたもののアレルギーのショックで、数時間後に死んだということだった。
俺らは山田とは同じ学類ではないから、直接の連絡はなかったけど、たまたま大学に顔を出したやつがこれを聞いてきた。

んで、その日のうちに連絡をとりあって、仲間のアパートでビデオをもう一回見ようとしたが、最初から再生できなくなっててなんとしても映らない。
パソコンに取り込んだやつは再生できたが、山田らしき人物が写ってるシーンにくると、画像が乱れてそっから先へ進まない。
俺らはみんなブルってしまって、その日はそいつのアパートに泊まったんだが、このビデオの話は他のやつには言わないことにしようと決めた。

ただの偶然かもしれないし、言っても信じてもらえるような話じゃないし、証拠もなくなってしまったし。

あれから1年近くなるけど、このときの仲間4人に特に不幸とか変わったことは起きてない。

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