あの男

あの男 俺怖 [洒落怖・怖い話 まとめ]

いつだったか、山合いの道で女性の幽霊を車に乗せて成仏する様に説得しその後、娘の中に(?)居るらしくお礼を言われた話しをしたTですが…
その後、新たな霊体験で私自身死にかけ、また娘も関わってくる事がありました。
その話しをさせて頂きたいと思います。
文才無いのはご容赦ください。

今年の2月の事でした。
隣県にて荷物を積み終わり会社へと戻る道中の事です。
時間は23時を回っていました。
朝からの雪で路面は轍の跡以外真っ白な状態で山間部と言う事もあり凍結に注意しながら車を走らせていました。
私から見て右は山、左は歩道とガードレールがあり50m下は渓谷でした。
軽い登り坂を越えようとした時、首筋あたりに嫌な悪寒が走り…
耳鳴りがしてきます…
いつも首から下げているお守りを左手で握り首の後ろにあてがおうとした時です。
突然前方に人影が現れました。
私の進路上に立ち尽くしている…
慌ててブレーキをかけた為にタイヤがロックしスリップ…ハンドル操作がほとんど効かぬまま人影へと…
当たる!
…?すり抜けた?
カーブ出口はやや長い直線になっていたので車の制御を取り戻し、気持を落ち着かせます…
何の衝撃も無くすり抜けた人影は男でした。
作業服の様なズボンに半袖のTシャツ、冬の真夜中にはおよそ不似合いな…

一旦広い路側帯を見つけ念の為に車を見て回るも変形はおろか傷も無い…浮遊霊の悪戯だろうかと勝手に推測し再び車を走らせます。
一抹の不安がよぎり再びお守りを握る…と首から下げているお守りの紐が音も抵抗もなくまるで結びめが自然にほどけたかの様にハラリと力無くお守りから垂れ下がり…そして再び悪寒が。
首筋…首の後ろが引き攣るような感覚。
耳鳴りと息苦しさまでも重なってくる…
全身の毛が逆立ってゆくのを感じました。

前方約50mには左曲がりのカーブ。ハンドルをきろうとするが身体が動かない!
金縛りだと理解する頃にはカーブが目前になっており山側へと車は誘われるように…
実際、誘われていましたね。あの男が再び立っていたのだから…
普通ではあり得ない程見開いた死んだ魚みたいな目、裂ける程に口を開けている。
顔とは反対にスローな動きで誘う手…
正直、終わったなと思いました。
そして…要壁と要壁の間の沢、パイプのフェンスをなぎ倒して私と車は突っ込み、物凄い衝撃と頭に激しい痛みを感じると意識を失いました。

【後で聞いた話し】
通りかかった地元の方の通報により私は救助され、病院へ搬送されたそうです。
上半身傷だらけで出血が酷かった上、フロントガラスの割れた所から冷たい沢の水をかぶり体温も低下…
搬送先の病院での処置が終わっても丸3日昏睡状態だったと…

話しを戻します…
4日目に意識を取り戻した訳ですが、その時の事ははっきりと覚えています。
意識の中なのか夢の中なのかは分かりませんが…私はあの男に連れていかれそうになってました。
見た事も無い崖の上で私は崖を背に前に進もうとします…

が、あの男が後ろから私を崖下に引きずり込もうとしています。
前には恐らく私が引きずられてきたであろう跡が続いて…
「離してくれ!」私の叫びを無視して男は私をただひたすら崖下へと引きずろうとしてくる。
崖の下が見えてくる…底が見えない真っ暗な闇?その中から無数の手や顔が見える…
絶望的な恐怖がこみあげてくる。
「嫌だ、娘に、妻に会いたい…まだ…死にたくない!」
声の限り叫んで必死にもがく私の左手をふいに誰かが掴みました。
『パパ?帰ろう』
何で?と思う間に娘は小さな手に力を込めて私を引っ張る。
私は必死で力を込めて前へと進むが後ろの男も一段と引きずる力を増してきます。
このままでは…娘まで引きずり込まれる…
「早く離しなさい、もうパパはいいから!」
何度か言っても娘は巌として聞かない…
小さな体に精一杯の力を込めて私を引っ張る。
だがもう後がない…
私は覚悟を決めました。右手で左手を掴む娘の手を振り払おうとした時、その手をまた誰かに掴まれました。
……!?
私は新たな手の主を見上げ…手の主も私を見ている…あの人だった。
前に私が峠で助手席に乗せた女性だ…
彼女は私に微笑みました。

あの時は悲しく寂しげだった顔が今回は…上手く表現出来ないのですが満ちたりたかの様に、淡く輝く様に感じられました。
彼女は私の後ろを見ると
『離して下さい』
と柔らかく、しかし力強い口調で言います。
良く分かりませんが彼女に怯んだのか男の力が弱くなっていく。
私の中でも不思議と力が満ちてくる様な気がし、渾身の力で男を振り払いました。
二度と見たくない様なおぞましい憎悪の表情で男だけが落ちて行くのが見え…
助かった…と思った瞬間に意識の中の私が意識を失いました…

ふっと目を開けるとそこには私を覗き込む妻が。
左手に温かみを感じ視線を移すと娘が私の手を握ったまま私の手に被さる様に眠っている。

私は目だけで周囲を見回しここが病室だと理解しました。

助かったんだと安堵すると娘が起き、私に微笑みながらパパおかえり、と。
私は泣きそうになりながら左手で娘の頭をやたら撫でつつ、ありがとうとしか言えませんでした。

後で娘が言うには…病室で眠ったら夢であの人にパパを迎えに行こうと言われたそうです。

娘(二人?)が助けに来てくれなかったらやっぱり私は連れていかれてたのかな………
 
長文、駄文失礼致しました。

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